今回の為替介入について(続編)
本日発行しました無料メルマガにて、再度、今回の為替介入について取り上げています。ご参考の為に、こちらにも掲載しました。
■今週も皆様お疲れ様でした。今週の相場は、何と言っても、政府・日銀が04年3月16日以来、6年半ぶりのドル買い円売り介入を行ったことが最大の「イベント」でした。この最近のドル円相場の動きは、じりじりと円高傾向にあったこと、産業界からも円高抑制に対する期待発言が目立っていたこともあり、政府・財務省は着々と為替介入の準備を進めていたようです。
そして、民主党代表選直前に、小沢元幹事長が自らの所信表明において為替介入や追加金融緩和に対して積極的な姿勢を示したこと、それに対して為替市場が円売りで反応するという状況が見られました。このような流れの中、結局、小沢元幹事長が代表選に敗れ、管政権続投が決定となった時点で、市場は円買い方向で反応し、今年の円高値を更新、一時82.87円を付けるに至りました。
そして、この、まさに今年の円高値を更新したタイミングにて、政府・日銀はドル買い円売り介入に踏み切ったのです。管政権の続投が決定したことで、為替介入はすぐには実施されないだろうと、市場が見込んだ矢先に実施したことで、市場へのインパクトは大きなものとなりました。このように、相場とは、いつも、市場参加者の大多数が予想、期待していない方向の要因が発生した時に、大きく反応するものです。
今回の介入のタイミングの意外性もさることながら、介入金額が2兆円に迫るものであったことが市場の需給に大きく影響を与える結果となり、結果として、1日で3円近くドル高円安方向に推移する格好となりました。今回の為替介入が予想外に効果的であったのは、上記の通り、タイミングと介入規模でした。この辺りの「テクニック」については、為替介入の経験者がいないだけに、政府・財務省は事前に得策を練ったようです。
と言うのも、為替介入の担当は、財務大臣、財務官、国際局長、為替資金課長、日銀の為替担当者(為替課長)ですが、現職の玉木林太郎財務官をはじめ、過去2代の財務官は介入経験を持たないということで、8月中旬に、財務官として03年から04年にかけて、過去最大の33兆円規模の円売り介入を主導した溝口善兵衛氏(現島根県知事)をひそかに東京に招いて、「作戦会議」を開いたとの報も聞かれました。
ところで、現在の財務省事務方トップの次官は、勝栄二郎氏ですが、彼は、あの「ミスター円」こと榊原英資元財務官(現:青山学院大学教授)が国際金融局長時代に大規模介入を実施した際の為替資金課長でしたので、今回の件に際しても口添えをされた可能性があると思われます。
思い起こすと、95年当時、ドル円相場が歴史的最安値、1ドル=79.75円を付けて以降、しばらく80円台半ばで推移していた相場を強力に押し上げた当局の介入姿勢は、確かに、凄まじいものがありました。その時の介入を陣頭指揮していたのが、榊原氏であり、勝氏であったわけです。私自身、シティバンク東京支店にて、為替トレーディングチームのチーフディーラーの立場であったことから、特に勝氏とは密なコンタクトを取り、市場動向や、センチメントなどをお伝えさせて頂いた記憶があります。
同時に、勝氏を始めとして財務省(当時は大蔵省)の為替資金課から直接伝わってきた情報を「国際金融筋」を主語にした内容文として、海外支店にも伝えていました。このように、実際のところ、海外支店を通じて欧米のヘッジファンドなどにも生きた情報を回していたわけです。そして、それらの情報が回り回って、ありとあらゆる市場筋に流れていき、大きな市場エネルギーとなっていったのだと思われます。
■ところで、今回の為替介入は日本政府・財務省主導による単独介入であると言われています。そして、これに対して、海外の通貨当局からは、「非難」が飛び交っているようです。元々、米議会は、中国の人民元の切り上げが遅れているとして、為替操作への批判を強めようとしていたところがあります。そのような状況下で、日本が単独で巨額の円売り介入を行ったものですから、さすがに好意的ではなさそうです。既に日本の通貨当局への強い批判姿勢を示しています。
また、ユーロ圏財務省会合議長を務めるユンケル・ルクセンブルク首相は、日本のドル買い円売り介入について「単独介入は好ましくない」と批判すると共に、ユーロ圏として、単独介入に反対の考えを日本当局に伝えたことを明らかにしています。このように、米国からもユーロ圏からも、今回の日本の為替介入に対しての理解は得られていないようです。
もっとも、だからと言って、日本政府・通貨当局も、国内外の不景気を背景とした産業界の悲鳴を前にして、手をこまねいているわけにいかず、今回の単独介入に踏み切らざるを得なかったのだと思われます。そもそも、マクロ経済の観点からして、適度な自国通貨安が望ましいのは明らかであり、景気回復を進める為にも、過度な自国通貨高を防ごうとするのは当然の行動ではあります。問題は、世界経済全体の枠組みの中で、自国だけが良いというスタンスを通すことは出来ないということであり、まさしく「協調体制」が求められるわけです。
今回の事態を受けて、今後は、主要先進7か国が、G7(先進7か国財務相・中央銀行総裁会議)等の場で、通貨政策を巡って、より具体的かつ突っ込んだ議論がなされると予想されます。そして、G7後の共同声明においても、今までのように、曖昧な表現ではなくなる可能性もあります。
■さて、私たち、相場を相手にトレードする人間にとっての最大の問題は、相場そのものが、介入を受けて、今後どう展開していくかです。問題の視点を明確にしておく為に、大事なポイントを押さえておく必要があります。それは、介入があろうが無かろうが、現在の相場がどのようなステージ、局面に位置しているのかという点です。つまりは、今回の介入の効果があるのかどうかは、とどのつまりは「相場の地合い」次第と言えるわけです。
シンプルに表現すると、相場が本格下落途上にある時は、買い介入をしても一時的なものとなる確率が高い一方、相場が底値圏にあって今後反転・上昇に転じるタイミングが近づいている時は、買い介入の効果が高いということです。あの1995年当時についても、3月に、それまでの安値96.11円(94年11月に示現)をブレイクしたことで、巨額のロスカット注文が発注され、ドル急落した局面では、介入効果はほとんどありませんでした。
95年4月に1ドル=79.75円を示現した時も世界中から円売りポジションのロスカットが大量に入る場面であったことから、為替介入の効果はほとんどありませんでした。まさに、スムージングオペレーションと言う、流動性を加えながら、市場の動きを滑らかにするという役割に徹していたとも言えましょう。
しかし、ドル円史上最安値を付けた後、しばらくの間、相場が落ち着いて、次第に自律反転を始め、88円前後で推移していた95年8月に実施されたドル買い円売り介入は抜群の効果を発揮しました。結局、下落していく途上で、世界中の誰もがドル売り円買いに躍起になっている場面では、幾ら大量のドル買い円売り買い介入を行ってもさほど効果がなかったものの、ポジション調整が一巡して段階で実施された介入の効果は甚大であったわけです。
つまりは、市場参加者の多くがドルロング・円ショートポジションをロスカットした後、ポジションがこなれて、むしろ、市場のセンチメントが逆に、ドルベア・円ブルという状況になって、ようやく、ドル買い円売りの介入効果が発揮されたと解釈することも出来ます。ただ、ここで難題が生じます。上記のような解釈は、相場が終了してからは、いかようにでも解説を行うことが可能であり、まさに「後講釈」は理路整然となるわけです。実際に相場に入っている最中に、世の中のポジション整理がどこまで進んだか、相場が自律反転の局面に入ったのかどうかは、なかなか分からないのが実情です。
シカゴIMMのポジション残高を参考にしたり、市場参加者のポジションを辺り構わず聞きまくったりして、市場のポジションの偏りを調べるという作業に意味がないわけではありませんが、やはり、分析結果への信頼度合いは、不透明、不正確と言わざるをえません。ましてや、通貨当局の姿勢についての解釈となると、まさに雲を掴むようなものであり、市場の真っ只中にいる市場参加者にとっては、難題以外の何物でもないと言えます。
■そんな暗中模索の中にあって、僅かな明かりを灯してくれたのは、やはり、チャートでしょう。チャートには、ありとあらゆる情報が織り込まれており、分析方法さえ間違わなければ、100パーセントでなくても、かなり正確な指針を与えてくれるからです。ところで、先ほど、「相場の地合い」と申し上げましたが、この「相場の地合い」に最も影響を与える要因は、「時間」です。何故なら、相場は「時間」の影響を受けて動いているからです。相場はタイミングが全てと言いますが、実際のところ、相場そのものの動きが「時間」の影響を大いに受けているわけです。
ちなみに、私の相場分析、トレード方法は「スパンモデル」「スーパーボリンジャー」「アクティベート時間分析」から成り立っていますが、この「アクティベート時間分析」がここで言う時間分析に当たるものです。
具体的に、為替介入に絡めて説明すると、ドル円相場が反転・上昇するタイミングであれば僅かな金額の介入でもアナウンスメント効果が絶大なものとなる一方で、下落相場の真っ只中であれば、幾ら巨額の介入資金を投入しても、所詮は一時凌ぎに終わってしまう可能性が高いと考えられます。つまり、ドル円相場が反転・上昇するタイミングにあるということは、つまりは、ドル円相場の下落局面、すなわち、下落時間帯が既に終了しており、トレンド転換が生じやすい時間帯にあることを指し、一方で、ドル円相場が下落相場真っ只中ということは、ドル円相場が下落する時間帯に位置していることを指します。
それでは、以下、簡単ではありますが、この最近の相場についての考察に入ります。先ほどから申し上げている通り、中長期的に見て、重要となるのは、月足ベースのタイムサイクルであり、時間リズムです。そして、ここ最近のドル円相場の時間リズムを見てみると、月足ベースにて、今月と言う時間は「節目」に位置していることが分かります。
判断根拠は、月足ベースにて、安値から安値までの以下のタイムサイクルの存在です。すなわち、安値87.10円を付けた09年1月から今月9月で21ケ月目となります。加えて、高値から安値までの次のタイムサイクルの存在です。すなわち、高値124.14円を付けた07年6月から09年1月まで20ケ月要しています。つまり、高値から安値にかけて20ケ月要した後に、安値から安値にかけて21ケ月というタイムサイクルが生まれていることが分かります。
さらに、ドル円相場を月足ベースで観測すると、2000年以降現在に至るまで19ケ月から20ケ月のタイムサイクルが存在していることが分かります。加えて、安値85.09円を付けた09年11月から今月で11ケ月目となりますが、この時間は、安値87.10円を付けた09年1月から09年11月まで要した11ケ月と同一時間です。さらには、安値95.77円を付けた08年3月から09年1月まで要した11ケ月とも一致していることが分かります。尚、この11ケ月サイクルは、01年9月から05年1月までの期間、安値・安値サイクルとして存在した11ケ月サイクルにも呼応しています。
以上より、ドル円相場は、月足ベースで見て、今月と言うタイミングでドル安値をつけにきたと読むことが出来ます。今月と言う時間にドル安値を付けて、来月以降、ドル反転・上昇しやすい地合いにあると判断出来るわけです。
もちろん、来月になって、今月の安値をさらにブレイクする場合は、時間の延長となりますので、下落相場が継続となる公算が高まります。いずれにせよ、このような「相場地合い」にあるからこそ、今月におけるドル買い介入は非常に効きやすいと考えることが出来ます。その意味では、「予想外に」介入効果があったと後になって評価されるかもしれません。
ところで、過去の外国為替市場の歴史の中で、当局の為替政策は、長期で見ると成功しているケースが大半です。その意味で、少なくとも、G7各国の通貨というものは、「官制相場」、つまりは、当局によって管理されていると言っても過言ではありません。この辺りが株式市場とは質的に異なるものです。要するに、主だった主要国間の外国為替相場と言うのは、短期、中期的には、市場の標的になることはあっても、長きスパンにおいては、ある程度のレンジに収まるケースが大半ということです。
もっとも、繰り返しになりますが、外国為替市場とは、懐が実に深いものであり、一方向に反転・上昇すると期待するのは甘いと言えるでしょう。市場は何度も当局の姿勢を試しに来るものと予想されます。逆に言うと、そのような、市場参加者を不安にさせる相場展開になる可能性が十分にあるということです。ただ、それでも、右往左往しながら、月単位で見れば、今月が節目のタイミングの月であることが、政府・財務省に追い風となるかもしれないと勝手ながら考えている次第です。
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