「円高」と「為替介入」について
★本日発行しました。無料メルマガにて「円高」と「為替介入」について触れましたので、ご参考の為に、こちらのブログにも転記致します
■この最近、「円高」に関する報道ニュースが急速に増えています。確かに、「円高」そのものが日本経済、とりわけ輸出企業に及ぼすネガティブ効果もさることならが、日本経済全体への悪影響を意識していることは事実です。景況感が悪化するという意味では、確かに「円高」は株価に対して影響度が大きいです。ただ、ここで思い出して頂きたいのは、本来の図式として、「円高」イコール株安というわけではないことです。
一例を挙げると、1998年当時、ドル円相場は147円台までドル高円安に振れました。その時、株価は大きく株安方向に向かっていたという事実があります。すなわち、ドル円相場が1995年4月に80円(79.75円)を付けた後、ドル高円安方向に転換、1998年8月に147円(147.64円)を付けるまでの過程での株価動向がどうであったかと言うと、当初、1995年4月の80円から1996年央にかけて110円程度まで戻るステージでは、株価は上昇基調(14295円から22750円まで上昇)となりました。
ところが、1996年6月に22750円を付けてから1998年10月に12787円まで下げるまでは、一貫して株安方向に動きました。その間の外国為替相場との関係はどうであったかと言うと、「後講釈」として、適度な円安(110円程度まで)であれば、株式市場にとって好材料であったものの、それを上回る円安は、株式相場の売り材料にされたと言うことです。ただ、この辺り、どの水準で円高、円安と線引きするかは、後になれば、「後講釈」出来ますが、それぞれの局面では、判断は極めて難しかったことは事実です。
実際問題、当時、私は、ある米銀のディーリングルームにいたのでよく覚えていますが、日経平均が買われると円高、日経平均が売られると円安とマーケットエコノミスト(ディーリングルームに所属するマーケット専門のエコノミスト)達が叫んでいたのを覚えています。つまり、今現在の株価と為替のパターンと全く逆向きであったということです。
ところで、当時、私は、マスコミ向けのコメント用として、「ファッション」と言う言葉を多用しました。つまり、市場が、株安=円高(株高=円安)、もしくは、株安=円安(株高=円高)と判断するのは、そのときどきのマーケットにおける「ファッション」のようなものだと説明したわけです。
確かに、市場参加者の立場からすると、今現在、市場は何に関心が向かっているのか、何を判断材料として反応しようとしているのかを知っておくことが大事なわけです。別に、材料に対する判断や行動が、経済原理に従っていようがいまいが、お構いなしです。例えば、日銀総裁などは、昔から頻繁に、「円高は国益に有利なこと」などと表明することが多いです。
国益に有利であれば、株式市場が円高をいつも好材料として受け止めてしかるべきなのですが、実際のマーケットの反応はそうではないのが過去の歴史が示す通りです。そもそも、日本は資源輸入国だから円高が国益にとって有利だと言うことを、ここで声高く言ってみたところで、単なる評論家で終わってしまうだけであまり意味がありません。
もっと言うと、そもそも株式市場は、世界中、ほぼ同方向に動いています。高安の度合いの違いはあるものの、各国の株価指数の互いの相関性はかなり高いものがあります。となると、ここで不思議な現象が生じていることが分かります。何故なら、円高で日経平均が下げるのであれば、ドル高でNYダウが上がっても良いはずです。しかしながら、実際には、日経平均もNYダウ、さらには欧州各国の株価指数もほぼ同方向の動きをしているのです。
ところで、別の観点からお話すると、リスク許容度が上がる、下がるということが言われ始めて久しいですが、「ファッション」はと言うと、「株価上昇=クロス円上昇」「株価下落=クロス円下降」という図式となっています。少し前までは、低金利の円を借り入れて、その円を売り、高金利の外貨を買うという、まさにクロス円の買いのニーズが生じる局面と言うのは、リスク許容度が上がっている時であり、リスク許容度が下がれば、それらクロス円のロングポジションの手仕舞いからクロス円相場の下落につながる、と言うのが誰もが想定する「パターン」であったわけです。
しかしながら、最近は、世界的不況のあおりを受けて、各国金利も低下し、いわゆる「キャリートレード」なる表現は、かなり鳴りを潜めてしまったようです。従って、「スワップ金利で稼ごう」式のトレード手法を全面に押し出す人もさすがに減少したと見受けられます。ただ、これでようやく、本来の外国為替相場に対する正しい認識が高まったと私は見ています。
つまり、外貨証拠金取引(FX)というのは、スワップ(キャリングメリット、もしくはインカムゲイン)で稼ぐのではなく、キャピタルゲイン(売買益)で稼ぐのが本来の姿だということです。その意味で、最近のFX市場は、本来の外国為替市場になっていると思われます。
■さて、「円高」がもたらす影響について、幾つかの観点から見ていますが、ここでは、今、市場にて話題となっている「為替介入」に関して触れてみたいと思います。
今、市場では、為替介入警戒感から円売り圧力が強い等のコメントが聞かれますが、事はそう単純ではありません。まず、結論から言うと、金融当局による為替介入は長い目で見て、多くのケースにて、為替相場が、結局は、金融当局が狙う方向に落ち着いたことは事実ですが、その途中では、全く介入が効かなかった場合も大変多かったということです。
先ほど、多くのケースにて金融当局の思惑方向に落ち着いたと書きましたが、実際には、金融当局が市場の圧力に負けたケースもあったということです。より直接的に言うと、介入が効くか効かないかは、結局は相場の自律的な動きに左右されるということです。
一例を挙げると、ドルが反転上昇するタイミングにてドル買い介入が入ればドルは急上昇しやすいということです。逆に言うと、ドル下落局面の真っ只中でドル買い介入をしても効かないどころかさらにドル下落加速するということです。つまり、ドル本格下落局面にて、ドル買い介入があると、一時的にはドル反発しますが、そこがドル戻り売りの絶好のチャンスとばかりに世界中からドル売り注文が入り、結局は、介入した時のレベル以上にドル安が進んでしまうケースが往々にしてあるということです。
これは、私が実際に何度も経験したことなのですが、一例を挙げると、米銀に在籍していた当時、ドル買い介入が入って、日銀からのドル買い注文を市場に出している時、同じタイミングで、海外の支店から大量のドル売り注文が入ったのです。海外支店や海外支店の顧客は日銀の介入でドルが買われていることを知った上で、大量のドル売り注文をしてきたのです。この状況は見た目には確かに滑稽なものでした。
何故なら、私のいた銀行(米銀・東京支店)が市場でドルを買うと同時に、ドルを売っていたのですから。日銀からのドル買い注文と、海外支店からのドル売り注文をマッチングしてしまうことは許されない為に、実際の売買注文を市場に出さねばならないと決められていることから、このように事態となったわけです。
ですから、こちらがドル買いの為にインターバンク市場にてカウンターパーティーである相手銀行を呼んでドル買いを行う一方で、ドルを買わせてもらった銀行とは違う銀行を呼んでドルを売らねばならないわけです。ここで、もし、ある銀行からドルを買ったのと時間を置かずして、この同じ銀行に対してドルを売った場合、自分の銀行のレピュテーションを大いに貶めることになるリスクが生じます。
インターバンク市場というのはそういうものであり、インターバンク市場に参加している各銀行が互いに流動性を供給し合って、互いを助けているようなものであり、そこでは、一種の「紳士協定」のようなものが存在しています。
従って、どの銀行がどのような売買を行っているのかは、市場参加銀行の間で、ある程度まで分かってしまうものであるだけに、短時間での逆の売買が下手な振舞いと捉えられてしまう傾向があるのは事実です。その為、レピュテーションリスクがあると言っていいわけです。
■さて、本題に戻ると、要するに、為替介入というのは、その時のマーケットの地合いによって、介入効果が大いに異なってくるという点、覚えておく必要があります。
よくあるケースが、介入期待のドルロングポジションの積み上がりが増えてくると、ドル買い介入したにもかかわらず、介入した瞬間から上がらない、むしろ下がるという展開にもなりかねないということです。この介入期待という点はよく覚えておくと良いと思います。と言うのも、今後、益々、市場では、為替介入と言うことを話題にするでしょうし、マスコミもこぞって取り上げるであろうからです。
私達は、常に、冷静になって、この状況を察知し、プロフェッショナルに行動することが求められると言って過言ではないでしょう。尚、別のケースでは、不意打ちの介入であると、効果は絶大なものとなる可能性もあります。まさかのタイミングで介入が入ると、市場参加者が期待していなかった分、効果が倍増するというわけです。
このように、為替介入というのは、金融当局である政府・日銀も市場参加者の一員であるという認識が必要であり、もし、金融当局にマーケットに対する洞察力があると、それだけ、多くの介入資金を使わずに効果的な介入を実施することが出来るというものです。この点、FRB(米連邦準備制度理事会)の代表として為替介入を行うニューヨーク連銀は昔から介入を効果的に行うという意味では、日本の政府・日銀とは一線を画しています。
何故、効果的に介入を実施するかと言うと、絶妙のタイミングで介入してくるということです。しかも市場参加者の不意を突く、実にプロフェッショナルであると言えます。その為、介入資金も僅かで済むという利点もあります。そもそも、米国では、連銀の為替介入に関しては、介入資金の調達が絡んでくるだけに、議会がその善し悪しに口を挟む仕組みとなっており、連銀も、議会の理解を得られるように、如何にして効果の高い介入を行うことが出来るかを常に調査、探究してきていると言えます。
この点、日本の場合は、すでに、新聞やテレビの報道などで、「事前に」為替介入や円高対策について発表してしまう傾向があります。日銀の金融政策にしても、最近でこそ、政策委員会・金融政策決定会合の結果を、固唾を飲んで待つというケースもありますが、ほとんどが「事前に」市場が織り込んでしまうという特徴があります。
この「市場への織り込み度合い」が高ければ高いほど、実際に介入実施や経済・金融政策等の発表がなされた時の反応が鈍くなるという点、私達、市場参加者は十二分に理解しておく必要があります。ここで大事なことは、やはり、市場は市場の動きを自らが決めるということです。「マーケットのことはマーケットに聞け」とも言えましょう。
相場が自律反転する途上にある時、もしくは相場が間もなく自律反転する可能性のあるタイミングを迎える時に、為替介入を実施すれば、実に効果的だということです。この絶妙のタイミングを計る上で、時間の節目を判断材料に入れれば、政府・日銀としては、ベストパフォーマンスを出せるものと期待出来ます。
要するに、市場の大勢が予想するタイミングで為替介入を行っても、成功するかどうかは、この相場の流れがどうなっているか次第であると言えるわけです。「マーケットのことはマーケットに聞け」をしっかりと頭に入れて臨んでいれば、いつも通り、淡々とトレードするだけで、結果はついてくるというものです。
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