「月末近くになって思い出すこと」
「偉大なトレーダーは常に謙虚である」と過去から言われますが、確かにそうだと思います。大きく収益を上げた後に、大きな損を被るというのも一般論として真実だと思います。
今日は5月27日ですが、私は、80年代後半にニューヨークで為替トレーダーをやっていた時に、ある苦い思い出があります。それは、2月27日のことでした。その年は「閏年(うるう年)」であり、月末の3日前だったと明確に記憶しています。
その月、私は大変に調子よく、収益がコンスタントに拡大し、月間ベースで最高益の記録を打ち立てようとしていました。それにしても、人間調子に乗ると、自信過剰になるものです。
その2月27日の朝、私は、上司のチーフディーラーに、「今月は成績も良いし、思いっきりやれば良いよ。」と言われ、舞い上がってしまっていました。上司の言葉にあやかり、それまで持ったこともないほどの大きなポジションを作り、さらに収益を増やそうと意気込んだのです。
ドルが下落トレンドに入っていた月で、その日も、チャートを見て、ドル売りしかないと判断しました。(当時の私の分析能力は大したものではありませんでした)そして、ニューヨーク市場が始まって間もなく4千万ドル(1ドル=150円の頃ですから、約60億円相当)ほどドルを売ったのです。
百万ドルを1本と表現していますから、40本ものドルショートを持ったわけです。数十銭下げたところまでは良かったのですが、突然、ある米高官の発言をきっかけに、ドルは急上昇、自分のポジションはあれよあれよと言う間に、含み損を抱えてしまいました。
しかも、一瞬の動きであり、判断が鈍りました。何か目や耳の錯覚かと思い、すぐには自分のポジションを切れませんでした。たいがい、相場が大きく動く時というのは、マーケットのセンチメントが偏っており、世の中の有象無象のトレーダーのポジションが一方向に偏っているものです。
その為、ちょっとした発言、ニュースでも「きっかけ」「口実」になるわけです。その後も、マーケットのドル円レートはどんどん上がっていきました。市場参加者が一斉にショートカバーに走ったわけです。
私もさすがに堪らなくなりショートカバーをしましたが、ロスカットを完了した時には、その月の収益のほぼ半分を飛ばしていました。あまりのショックで悲しかったものの、自分の行動を深く反省をしたことを覚えています。
大儲けの後に大損が来る、と自ら体験したわけです。
それ以来、当分の間は、「月末3日間ルール」なるものを決めました。それは、その月、収益がある程度積み上がった時には、月末3日間は絶対に自重するという単純なルールでした。
月末が近づくとマーケットではドンデン返しが来る、と言う風に条件反射的に思うようになるほど、貴重な体験をしたわけです。幾ら自分に強い相場観があっても、敢えてポジションのサイズを増やさず、収益をしっかりと残すというものでした。
そうすることで、「相場の神様」に対して謙虚になり、長いトレーダー人生にとっては結局は益になると考えたのです。まさに「実るほど頭を垂れる稲穂かな」の心境になったわけです。相場に参加するこちらサイドの心のコントロールが本当に大切だと思い知った次第です。
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