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マーフィーの日々是好日

「マーケット力学」について(2)

「マーケット力学」についての本論です。

前回の話で、相場が上がるか、相場が下がるかを「誰が買った売った」で説明するのは無理な話であるという点はある程度はご理解頂けたと思います。早い話が、誰が買おうと誰が売ろうと、上昇相場であれば上がり、下降相場であれば下がるわけです。

この意味は、上昇相場であれば、買い材料に反応しやすく、売り材料に対する反応が鈍い、下降相場であれば、売り材料に反応しやすく、買い材料に対する反応が鈍いということです。このことを、需給の観点から言えば、仮にドルで1000本(10億ドルのこと)買っても20銭程度しか上がらないこともあれば、500本(5億ドル)売って30銭から40銭下げることもあるのです。

この点に関して、昔、実際のマーケット(ニューヨーク市場)で試したことがあります。ある日、30本(3千万ドル)市場でドルを買ってみたわけです。ところが、マーケット価格は微動だにしなかったのです。そこで、逆に、倍返しを兼ねて、60本売ったのです。すると、マーケットはいきなり崩れたのです。最近のマーケットですと、このような小さな金額でマーケットが簡単に動くとは到底思えませんが、「マーケット力学」を知る上で、当時、非常に役立つ経験をしました。

このような試し買い、試し売りということを実際にやってみると、マーケットの方向性が意外に分かるものです。もっとも、このようなことは、個人投資家が自己資金で出来るわけではありません。ここで知って頂きたいことは、外国為替市場におけるポジションの積み上がりは尋常でないくらい大きいということと同時に、やはり、どちらかに偏ってポジションが積み上がっているという事実です。

従って、先ほどご紹介した例のように、30本でほとんど上がらない相場は、60本も売れば大きく下げる相場であることが分かるのです。理由・背景として、市場参加者が目の前の価格の変化を見て、自らのポジションの調整をしてくるわけですが、その時点でのポジションの偏りが相場の動きに大いなる影響を与えるというのが、需給面からみた解釈です。

続いて、もっと本質的なことをお話したいと思います。

先ほど、具体例として、「米系ファンドが買ったからドルが上がった、欧州ネームが売ったからポンドが下がった、輸出筋が売ったからドルが下がった」というコメントをご紹介しました。実は、このコメントは、以下のように書き換えると「正しい」相場判断となります。「ドル相場が上がる時に、米系ファンドが買っていた、ポンド相場が下がる時に、欧州ネームが売っていた、ドル相場が下がる時に、輸出筋が売っていた」ということです。

つまりは、主体を市場参加者の誰がでなく、マーケットとするわけです。マーケットを主体にして、相場を追いかけていくと、相場自体の動きを捉えることが如何に大切かが分かります。要するに、マーケットが主体であるという発想です。市場参加者と主体とする発想とは根本的に違った考え方に基づきます。

別の観点から説明すると、市場とはそれほど厚いものだということです。米系ファンドが買った売った、輸出筋が売った等々で説明出来るほど単純ではないということです。輸出筋がドルを売りながらもドルは上がるものです。輸出筋の売り注文が付くレベルまでドルが上がったからこそ、輸出筋が売っていることが分かるわけです。

今の外国為替市場は、500本(5億ドル)1000本(10億ドル)で動くほど小さなものではないということ。それ故、売買主体が誰であるかを探り当てること自体が徒労に終わるだけだということです。先にも申し上げた通り、売買主体についての情報自体に信頼性が薄い上に、たとえ知ったからと言って、相場を分析する上でほとんど意味のないことだということです。

相場分析で大切なのは、実際の相場の動きそのものです。強い上昇トレンドの時は、幾ら大量の売りで立ち向かっても上がっていきます。逆に、強い下降トレンドの時は、幾ら大量の買いで立ち向かっても下がっていくものです。相場とはそのようなものなのです。

分かりやすい具体例として、昨年9月15日に政府・日本銀行がドル買い介入した時、介入だけで、2兆円を上回る金額相当のドル買いが入りました。しかしながら、翌日に戻り高値を付けた後は、一本調子の下落相場に戻ったわけです。何故ならば、当時のドル円相場は、下落基調にあったからです。

相場はいわば「生き物」ですから、この「生き物」がどのような方向性で動いているのか、さらに、その位置を時間、価格面から探っていく必要があるわけです。相場をやっているのは人間ですが、その人間が無数であること、その無数の人間のとる行動を集約したものが、目の前の相場ということになります。

相場には「終値」というものがありますが、「終値」は、その時間軸の終了時点において、市場参加者が納得したレートです。例えば、日足であれば、その日の終りの時点で、全ての市場参加者の集合体が納得したレートです。もちろん、個別の市場参加者が納得しているわけではありません。あくまで、集合体としての最終判断が、その終値を認めたということなのです。こういったことから、私は「終値」を殊のほか重視しています。

「マーケット力学」とは、マーケットそのものの力です。市場参加者全ての力が集約されたものであり、そこには、需給面、心理面も含んでいるわけです。まさに、有象無象の力が加わって、生起しているのが相場そのものなのです。

このような相場の動きを理解しようと思えば、もちろん、「ファンダメンタルズ」では不充分です。「ファンダメンタルズ」は相場に影響を与えますが、ほんの一部です。ましてや、「ファンダメンタルズ」を追いかけていけばいくほど、市場参加者は「不安」「混乱」に陥ります。やはり、相場のことは相場に聞くしかないということです。

従って、相場そのものの動きを分析することで、「マーケット力学」を知ることが出来るようになります。以上、相場研究における、「マーケット力学」についての私の独断と偏見のお話でした。

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プロフィール

柾木利彦(マーフィー)

Toshihiko Masaki

インテリジェンス・テクノロジーズ代表

1980年、大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)を卒業後、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。
ニューヨーク支店、東京本部の ドル円チーフディーラーを経て、1992年米銀大手の『シティバンク』や欧州系大手の『オランダ銀行』東京支店などで外国為替部長として外銀最大級のトレーディングチームを率いて活躍、現在に到る。その間、「東京市場委員会」での副議長や「東京フォレックスクラブ」委員などを歴任。卓越した市場関連知識でもって、テレビ、ラジオ、新聞などで数多くの情報発信を行い、東京外国為替市場の発展に貢献。自身、過去24年に及ぶトレード経験に基づき、独自のチャート分析 (「スパンモデル」「スーパーボリンジャー」等)を確立。
個人投資家に向けて最強の投資法を伝授することをライフワークとして、現在も精力的に取り組んでいる。

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