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マーフィーの日々是好日

為替ディーリングで生き残るということ

1984年12月に、私が東京での研修を修了して、邦銀ニューヨーク支店にて外国為替ディーリングの世界に入った時の上司はとてつもなく怖い人でした。それまでの自分の人生で出会ったことのない近寄り難い存在の人でした。しかし、相場を徹底的に教えてくれた恩人であり、先生でもあります。はっきり言って、彼がいなければ今の自分は存在していなかったとも断言出来ます。

その彼がある日こんなことを言いました。「為替は中卒。マネーは高卒。債券は大卒。」(マネーとは資金繰りのこと、債券とは債券ディーラーのことです)この発言にはさすがに頭にきました。まるで為替ディーラーは力仕事で頭を使わないみたいじゃないか、それはないだろう、と思いました。

実は、その尊敬すべき上司自身が為替市場の過酷さ、困難さを熟知していて、為替ほど奥の深いものはない、一見単純そうに見えて、実は本当に実力がないと生き残れない世界だということを私達に教えようとしていたのです。

彼に言わせると、マーケット、特に為替市場というのは、「不断の勉強する姿勢」が求められる世界である、ということです。だから、為替で生き残るディーラーは何をやっても通用する、と言ってくれたのです。正直、内心、とっても嬉しく思ったのを覚えています。やりがいのある仕事だと思いました。だから、自分は絶対この世界でやっていこうと思ったのです。

以前、グリーンスパン元FRB議長が講演の中で以下のことを言ったことがあります。
「The seeming ability of a number of banking organizations to make consistent profits from foreign exchange trading likely derives not from their insight into future rate changes but from market making.」(2004年3月2日、ニューヨークエコノミッククラブにて講演)

まさに、相場観で儲けている為替ディーラーはほとんどいなくて、客玉からのマージンで稼いでいると喝破したのです。これには、驚きました。というのも、彼は実に「現場を良く分かっている」、否、分かろうとしていると感じたからです。

ご批判を覚悟で申しますと、実際、私の経験から言っても、昔から為替の世界でまともに「自分のポジション」で儲けているディーラーの数は知れているのです。大半のディーラーは、客玉を右左に動かして、「鞘抜き」をしているだけと言っても過言ではありません。だから、「ディーラー」と言う表現が適っているのかもしれません。

極論すると、取引対象となる、お客様へのクレジットライン(信用枠)をどれだけ持っているかが、その銀行の「為替ディーリング」収益を決定している、といっても過言ではないのです。

かつて、ある大手米銀の本部長は、自分の部下のトレーダーに自己勘定のポジションを持たせませんでした。理由は、リスクを取って自己勘定のポジションで収益を稼ぐぐらいなら、対顧客の信用リスクを取ることで、対顧客取引でのマージンで収益を上げる方が確実だと考えたのです。事実、その彼が本部長に居座っていた当時、確かにその銀行は大きな収益を上げていたのです。ことビジネスに関しては、彼は、実に「賢明」であったと言えるのかもしれません。

もちろん、優秀なディーラーが存在するのも事実です。特に為替ディーラーは1日24時間、マーケットと対峙してあくなき収益追求をしているわけです。そして、自身の相場観をしっかりと持って、自分のスタイルを確立しているディーラーも中にはいます。ということで、上記のことはあくまで一般論である点、ご理解下さい。

ただ、やはり為替で長年に亘ってコンスタントに収益を上げることが如何に難しいかということは、経験すればするほど分かってくるということなのです。

ともあれ、一般の個人投資家の中で、外貨証拠金為替ディーリングで「生き残っている」人は、よほどディーラーとしては凄いということになります。ただ、現実問題として、コンスタントに収益を上げ、生涯収益を増加させていらっしゃる個人投資家は少ないでしょう。

確かに、生まれつき天才肌のトレーダーは中にはいますが、正しい教育、訓練を受ければ、誰もがある程度の域にまで達することが出来るものと確信しています。ちょっと偉そうな表現になりますが、正直、私は、このような善良な個人投資家の皆様が正しくマーケットを理解し、正しくトレードすることで、経済的幸福を得られるように、少しでもお手伝いをしたいと思っています。

トレードから得るのは収益だけではありません。多くのことを学びます。世の中の事象、出来事はもちろんですが、自分という人間についても学ぶことが出来ます。その意味で、マーケットは、この世の縮図だと思います。皆様と様々なことを共有しながら、お伝えしてまいりたいと思っています。


プロフィール

柾木利彦(マーフィー)

Toshihiko Masaki

インテリジェンス・テクノロジーズ代表

1980年、大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)を卒業後、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。
ニューヨーク支店、東京本部の ドル円チーフディーラーを経て、1992年米銀大手の『シティバンク』や欧州系大手の『オランダ銀行』東京支店などで外国為替部長として外銀最大級のトレーディングチームを率いて活躍、現在に到る。その間、「東京市場委員会」での副議長や「東京フォレックスクラブ」委員などを歴任。卓越した市場関連知識でもって、テレビ、ラジオ、新聞などで数多くの情報発信を行い、東京外国為替市場の発展に貢献。自身、過去24年に及ぶトレード経験に基づき、独自のチャート分析 (「スパンモデル」「スーパーボリンジャー」等)を確立。
個人投資家に向けて最強の投資法を伝授することをライフワークとして、現在も精力的に取り組んでいる。

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