「絶対に上がると思ったら、下がるものが相場!?」
以下の話は、1984年の夏頃、私がまだ正式のディーラーになる前のディーラー研修生の時の話です。
将来のディーラー予備軍として、東京本部に集められ、ディーリング業務に関して、集中的に研修を受けていた当時、以前にロンドン支店にてチーフディーラーを務めたことがある先輩の方がマーケットについての講義をしてくれました。
その方は、たいへん頭脳明晰で、部(国際資金証券部)内でも、随一の理論派として一目を置かれていました。それだけの方が講義をしてくれるのだからよっぽど為になるだろうと期待して傾聴しました。正直、相場の予想方法など、「秘伝」も教えてもらえるかもしれないと思っていたのです。
ところが、氏は、講義の最中、相場の予想に関する話の中で、いきなりこのように仰いました。「私が、相場が絶対に上がると思ったら、下がる可能性はかなり高いでしょう。」と。
ロンドン支店でチーフディーラーまで経験した人が、自分の相場観がそれほど酷いものだと自ら認める発言だったのですから、私は、正直ショックで、目を丸くしました。
つまり、氏はマーケットの難しさを、身をもって実感していたのでしょう。そのことを、正直に謙虚に認め、相場に対して「絶対こうなる」などと思って臨むと大怪我をするということを私達に伝えようとしたのだと思います。
そして、氏は「相場なんてものは一寸先は闇です。」と言い切ったのです。そこまで言うのかと内心思ったのですが、これからマーケットに入っていく人間に向かっての、「マーケットをあなどるな」と言う、せめてものメッセージだったのでしょう。
結局、私は、2か月の「ディーラー見習い研修」を経て、ニューヨーク支店に配属になったのですが、研修期間中に聞いた様々な「机上の知識」だけを頭の中に携えて、荒れ狂うニューヨーク外国為替市場に放り込まれたわけです。
そして、氏の言葉の意味を、日々、自ら感じ取っていったことを覚えています。今はさすがに「一寸先は闇」とまでは思っていませんが、基本的には相場とはそのようなものだと認識しておくのが小難であり無難だと思います。
その謙虚さを持つことで、マーケットで生き残ることを許してもらえる気がするからです。
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