チャーリー中山氏との出会い(その1)
チャーリー中山氏と言えば、ある程度外国為替市場の世界に通じていらっしゃる方であれば知らない人がいないほど著名なトレーダーです。あの「8割の男」(後に「東京外為市場25時」に改名)の主人公である「北原一輝」のモデルとなった実在人物がチャーリー中山こと、中山茂氏なのです。
私が中山氏と初めて出会った当時、中山氏は、バンカーズトラストと呼ばれる、当時、トレーディング業務で世界でも群を抜いていた米系銀行の東京支店のチーフディーラーでした。私は、三和銀行(現:三菱東京UFJ銀行)ニューヨーク支店にてトレーダーをやっていました。
私のボス(ニューヨーク支店のチーフディーラー)が中山氏と親しくされており、中山氏がニューヨークに出張でお越しになった際に、こちらを訪問して頂く機会に恵まれたのです。私は、まだまだディーラーとしては「ひよこ」で、マーケットで名を馳せておられた中山氏を「遠くで見る」ようなものでした。というわけで、最初の出会いは、ディーリングルーム内で、軽く会釈をさせて頂いた程度でした。
その後、中山氏が私のボスを大変気に入られたらしく(「8割の男」にも書かれている通りです)、頻繁に深夜に東京から電話を下さり、ボスと情報交換をしたり、カウンターバンクを三和銀行ニューヨーク支店として、ニューヨーク時間に売買を行ったりするようになりました。
その後、中山氏に聞いたところでは、当時の邦銀ニューヨーク支店では、なかなか取引する先として有能な銀行を見出すのは困難である中、三和銀行を取引先として選択して頂いたのは、ボスとの関係もさることながら、ひとえにディーラーの質の高さが理由だということでした。当時、ディーリング業務で他行を圧倒して業績を伸ばしていた銀行でしたので、ちょっと手前味噌ですが、実際のお話です。確かに、ディーラーの世界はお世辞やその場限りの美辞麗句など通用しないのも当然のことであり、継続して取引をして頂いただけも、評価して下さっていた証拠と言えましょう。
そして、あの「8割の男」の中の「儀の折半」という章に紹介されている出来事が起こったのです。詳しくは書籍をお読み頂くとして、結果として、その後、そう時間を置かずに、私がドル円のチーフに「昇格」したわけです。
1985年の秋のことですから、あの歴史的イベントであったプラザ合意の後の大相場の中で、私はドル円ディーラーとなったわけです。それからは、まさに生き馬の目を抜くほどでは足らないくらい毎日が戦場のようなマーケットの中で、大物相場師である中山氏の注文が頻繁に三和銀行ニューヨーク支店に来るようになったのです。
実は、当時、私は、もうこの仕事しかない、一生この仕事と付き合っていこうと強い決心をしようとしていた頃でした。それだけに、果たして、この世界でやっていけるかどうかの試金石を確認する意味でも、中山氏の存在は自分にとっても大きな刺激となっていたわけです。
その頃、私は、自分のボスを相手に、尊敬する、素晴らしいディーラーとして、毎日何とかそのテクニックを盗んでみようと努めていたわけですが、中山氏のトレードもまた、目から鱗のような絶妙なタイミングで行ってくるとあって、毎日が、刺激で一杯の楽しい日々であったことを記憶しています。一つ間違えば奈落の底に突き落とされる厳しく苛酷なニューヨーク外国為替市場の中にあって、毎日、天国と地獄を行き来していたようなものでした。
やがて、ある日のこと、中山氏が私に直接電話してこられました。私は感激のあまり、心臓の高鳴りを覚え、興奮しました。何と、中山氏が私に、「マーケットのことは柾木さんに聞いてくれと言われましたよ。」と言う類のことを言って下さったのです。実は、私のボスが中山氏に、柾木は、直接に情報交換をしてトレードしても十分に役立つトレーダーだ、と仰って下さっていたのです。
と言っても、私は、歓喜に浸っている暇はなく、ただ無我夢中、一生懸命に中山氏に対して、自分の相場観や市場の雰囲気を伝えました。そして、何と言っても、中山氏の為に全力を挙げてベストパフォーマンスを出せるよう必死でトレードしていたのを覚えています。正直言って、世界の超一流のトレーダーに自分を評価してもらいたいと心の底で思っていたのです。そうすれば、自分は本当に一人前になったとの自信が生まれ、このトレーダーの世界、マーケットの中でやっていけるのではないかとの野心を持っていたのです。
その後は、中山氏がニューヨークに出張に来られる度毎に、三和銀行ニューヨーク支店を訪問して頂きました。そして、いつも私のボスと中山氏と3人で食事をさせて頂きました。そして、食事の場で、何度も激励の言葉を頂戴したのですが、それが、実際、私にとって大きな勇気につながったことを思い出します。不思議な現象なのですが、たとえ、トレードでどれだけ落ち込んでいても、中山氏とお会いして食事を始めた途端にもの凄く元気が出てくるのです。単に独特の「オーラ」を持っておられるだけはない、大いなる力を感じることが出来たのを、今さらのように思い出すのです。
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