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マーフィーの日々是好日

過去の失敗から学んだ教訓

かつて、私が米大手商業銀行シティバンクに在籍していた当時のことです。シティバンク東京支店は、東京外国為替市場において、外銀トップレベルの存在感を有していました。その為、外国為替部門の責任者の立場は必然的に大きなものとなっていました。

当時(1990年代前半から半ば)、シティバンクの外国為替部長という立場にあった私は、東京支店のトレーディング部門を引っ張っていました。米系銀行のトップに位置する銀行であった上、外国為替相場が大きく動いており、取引先の企業も外国為替を大規模に頻繁に取引するところも多かった時期のことです。市場動向を探ろうと、マスコミも躍起になって、私の元に取材に訪れていました。

各大手新聞社、テレビ、ラジオ、通信社はもちろん、財務省(当時は、大蔵省)、さらには、米国大使館からのコンタクトもありました。個人的には、超多忙であったにも拘わらず、広報部からの執拗な依頼もあり、それぞれのメディアに対して、「しぶしぶ」丁寧に対応していました。

そして、必然的に私に浴びせられたインタビューの多くは「相場はどうなっていますか?」と、「相場は今後どうなりますか?」の類でした。前者に対する回答は、特段、問題はないのですが、後者に対する回答は難題を含んでいました。

と言うのも、マスコミに向かって行う自分の発言は、そのまま音声、画像になり、新聞記事になり、世間に広まっていきます。そして、自分から出た発言等に、自分自身が影響を受けるという事態に陥る傾向があったのです。

例えば、大々的にドル円相場が下がるとの予想をメディアに出したとします。当然のことながら、周りの人々、自分の部下、多くのお客様は、私がドルに対してベア(弱気)であると考えます。もちろん、私自身が心の底からそのような相場観を持っていれば問題は生じないのですが、突然、何らかの理由で自分の相場観が変化したとします。

そんな時に、臨機応変に自分の相場観を変更出来るか、さらには、自分の持っているポジションを即座に調整することが出来るのかとなると、どうしても心に葛藤が生じるという現実問題に直面したわけです。そうなると、相場の神様は、人間の弱さを衝いてきます。相場はタイミングが全てと言いますから、ちょっとした遅れが大きな損失につながってしまうわけです。

本来、トレーダーという「人種」は、自分の相場観に固執してはいけません。まさに、私が大好きな言葉「任運自在」(運びに任せて自由にある)の境地に、常にあらねばならないわけです。それにも拘らず、自分自身が発した相場観に自分が影響を受けるなどという、あるまじき事態は絶対に避けなければならないと頭では重々分かっていながら、単純に行動出来ない自分を振り返った時、実に情けない気持ちになったものです。もちろん、いつもそういうわけではなかったわけですが、往々にして、そういう事態に陥ったことがあるのは認めざるを得ません。

そんな時に、自分がマスコミに出なければならなかったことで決して他人を責めてはいけない、全ては自分の責任であること、その上で、自分が出来る限りのベストの言動をとらねばならないということ痛感した次第です。

こんな実体験があったからこそ、その後の自分は、相場を極めるべく、邁進したような気がします。如何にして、相場を客観的に分析、判断し、淡々とトレードする能力を身に付けるか、そして、その為に必要な知識、技術と何であるのかをテーマに一心に取り組んできたつもりです。

相場の世界に「三猿」という有名な格言があります。「見ざる、聞かざる、言わざる」です。つまり、何か好材料を見ても浮かれたり、悪材料を聞いても弱気になったりしてはいけない、また、そう言ったことを人に話してもいけない、ただ人の心を迷わせるからだ、という意味合いの言葉です。

この中でも、とりわけ、「言わざる」と言う部分が、今回取り上げている私の失敗談に関係するものですが、つまりは、自分の相場見通しを人に語らないものだということ、つまりは、周りの人に語ると、その見通し自体に自分が縛られてしまい、臨機応変の対応がとれなくなるからだということです。

それでも、立場上、相場観について何らかの言葉を発しなければならない時もあります。それでも、その自分が発した言葉に左右、影響されず、相場を冷静、沈着に判断し、淡々と自分の信念、すなわち、自分の「トレードルール」に則って行動出来るよう、修業を積んできたつもりです。兎にも角にも、相場に精神面でも鍛えてもらってきた、そんな気がしています。

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プロフィール

柾木利彦(マーフィー)

Toshihiko Masaki

インテリジェンス・テクノロジーズ代表

1980年、大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)を卒業後、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。
ニューヨーク支店、東京本部の ドル円チーフディーラーを経て、1992年米銀大手の『シティバンク』や欧州系大手の『オランダ銀行』東京支店などで外国為替部長として外銀最大級のトレーディングチームを率いて活躍、現在に到る。その間、「東京市場委員会」での副議長や「東京フォレックスクラブ」委員などを歴任。卓越した市場関連知識でもって、テレビ、ラジオ、新聞などで数多くの情報発信を行い、東京外国為替市場の発展に貢献。自身、過去24年に及ぶトレード経験に基づき、独自のチャート分析 (「スパンモデル」「スーパーボリンジャー」等)を確立。
個人投資家に向けて最強の投資法を伝授することをライフワークとして、現在も精力的に取り組んでいる。

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