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コールの買はプットの売りとおなじか−コラムのテーマ募集より

議論のテーマ募集についに反応していただいた(感謝します)。で、ご質問は、


「8月21日の「売りからはいるハイローバイナリー」について1点質問です。バイナリー業者がショートポジションの保有を扱っていないという点についてですが、バイナリー業者の大半が プットバイナリーオプションの買いを扱っています。これは コールバイナリーオプションの売りと取引効果的に同じだと思いますがいかがでしょうか?」

今日は、これについてつたない知識を振り絞ってお答えしたい。


そもそも論として、オプションの場合コールであれプットであれ、オプション(権利)を買うか、売るかでは正反対のリスクがみえてくる。専門的にいうとオプションの売りは、それがコールだろうが、プットだろうが、ベガ(ボラティリティに対するリスク)、ガンマ(スポットの動きに対するリスク)はショートになる。つまり、市場のボラティリティが上がると損が膨らみ、原資産市場であるスポットが今のレートから逃げていくと追いかけなくてはならない。つまり合わせると相場変動が高まるのは“困る”ということになる。あと、セータ(時間的リスク)としては、時間的価値が減っていくので、期限が迫れば迫るほどありがたいということになる。もっとわかりやすくいえば、オプションの売り手にとっての味方は時間だけだともいえる。逆に買い手は、ガンマロング、ベガロングなので、相場が動けば動くほど有利であり、逆に期限が近づくほどに不利になるので、ベガ、ガンマは味方だけど、セータは敵ともいえる。


 デルタヘッジをする前提かしない前提かで見え方は変わるが、業者やインターバンクディーラーが原資産でのヘッジをする前提であるとなると、プットかコールか、そのストライクが遠いか近いかはあまり意味がなくなる。デルタポジションの変動分=ガンマを常にヘッジする、いわゆるダイナミックヘッジをする前提がある限りは、常にプットサイド、コールサイドそれぞれが持つデルタ値の合計を見るので、ストライクがどこにあるかとか、プットかコールかということをあまり気にしなくなる。かれらはそれらをネッティングしたデルタ値(ガンマ)を見て適宜ヘッジをしているからである。

 なので、ご質問の、コールの売りは、プットの買いと同じかについては、リスクの観点から同じではないというのが私の回答になる。ただしハイローバイナリーの現実面から見るとどうなるか。この商品は上記のダイナミックヘッジなどできはしない。10分が2時間になったからといってやっぱり無理。そうなると損失(支払)と利益(受取)の事象は、客とのプレミアムの授受とペイアウトの授受しかない。業者は常に、コールでもプットでも両方のプレミアムを受取り、結果としてコール側かプット側のどちらかのペイアウトを支払う。同値で終わったので中立となり、もらったプレミアムをプット側コール側双方に返すという事象は結果なにもなかったのと同じなので考慮しないとして、

客に売りをさせない場合(A)のモデルは、

業者の利益A=
客から受け取ったプレミアム全額 - 客に支払ったペイアウト額(プットもしくはコール)

客に売りもさせる場合(B)は、

業者の利益B=
(客から受け取ったプレミアム全額 - 客に支払ったプレミアム全額) - (客から受け取ったペイアウト(プットもしくはコール)全額 - 客に支払ったペイアウト(コールもしくはプット)全額)

になる。業者の受け取るペイアウトがプット側であれば、支払うのはコール側となる。


このビジネスモデルには、デルタも、ガンマもセータも、ベガもないに等しい。あるのは上記の受取と支払のイベントを式にしたモデルだけであり、そこでのコントロールパラメータは相場(原資産市場)が動くたびに変化させることができる受取と支払のプレミアム価格である。
式を簡単に見せるために以下の代数を用いる。

業者の利益(B):BrokerProfit
客から受け取ったプレミアム全額:PremRec
客に支払ったプレミアム全額:PremPaid
客から受け取ったペイアウト(プットもしくはコール)全額: PORec
客に支払ったペイアウト(コールもしくはプット)全額:POPaid

BrokerProfit=(PremRec – PremPaid) +(PORec –POPaid)

何が言いたいかというと、最終的には、客に提示するプレミアム価格をどう調整するか(これはほぼ全業者がBSMを使っているようだ)と、その理論的な仲値からどれくらいビッドアスクを離すかの2点しか業者として調整できるリスクコントロールツールはないということになる。

そういうわけで、コールの買いはプットの売りとは違うということを以上の解説で説明できているだろうか。


▼尾関高のFXダイアリーをご覧のみなさまへ
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米国のレバレッジ規制(100倍と25倍) 11月30日から

本年11月30日から米国でもレバレッジ規制が始まります。そのもととなったのが、米国NFA(Thomas W. Sexton氏、Vice President and General Counsel)からCFTCコミッション(David A. Stawick氏、Office of the Secretariat、Commodity Futures Trading Commission)に対して2009年2月23日に出したレバレッジ規制にかかる修正案のようです。ちょっと古いですが、以下はそのときの修正案の提案に添付されていた説明書を大まかに意訳したものです。本年11月30日にレバレッジ規制が始まるまでの業者と規制当局とのやりとりの過程がちらりと見えます。文中{ }は私のコメントです。

これでアメリカのレバレッジは最大100倍です。それより注目するのは業者の資本金が2千万ドルないと(もっと細かい条件は以下もしくは次号にて)FX業者になれないことです。だからアメリカには中小のFX業者が存在しないわけです。たぶん投資家を守る意味で、この資本金による規制が一番効果的なのではないかと思います。日本のパブコメでも一部の業者から同じ案が出ていましたが、素通りしていますね。

http://www.nfa.futures.org/news/.%5CPDF%5CCFTC%5CFRSec12_IntNotc021909.pdf


Re: National Futures Association: Forex Security Deposits - Proposed
Amendments to NFA Financial Requirements Section 12 and Interpretive
Notice Regarding Forex Transactions
February 23, 2009

説明 EXPLANATION OF PROPOSED AMENDMENTS

メジャー通貨(英ポンド、スイスフラン、カナダドル、円、ユーロ、豪ドル、ニュージーランドドル、スウェーデンクローナ、ノルウェークローネ、デンマーククローネ)は1%、その他は4%分の担保を顧客から徴収すること。ただし、業者の資本金額が規定(約20億円)の150%以上であればその限りではない。{ちなみにカナダの規制当局は、このリスクカテゴリーをさらに増やして3段階に分けている。}

2003年にセクション12を採択したときはメジャー、その他で、2%、4%であった。これは当時のIMM{先物取引所}の必要証拠金と同じである。

同規制を実行するにあたり、業者にヒアリングをしたら、メジャー通貨に2%はどうかという意見が多かった。{世界中の}業界全体として1%が普通であり、米国だけ2%にすると競争力が衰えると憂慮を表明してきた。そこで、同規制の施行を延期し、ひとまず1%でおこなう業者を観察することとしたわけである。

観察の結果、結論としてメジャー通貨については1%でよいと判断した。例外規定としては前回と同じく、150%以上の最低自己資本額がある業者であるが、ただし、その業者が最低自己資本額の2倍を満たすよう要求される場合を除く。

NFAがこの例外規定を採用したとき、最低自己資本額は25万ドルであった。しかし、最低自己資本額(*)の大幅な引き上げがあったことを考慮し、2008年8月に、NFAは上記の例外規定の閾値を200%から150%に下げた(最低自己資本額は、2008年8月時点では5百万ドルだが、2009年5月までに2千万ドル{約18億円}まで引き上げられる)。


{ここでいう自己資本は、一定の条件で調整された資産額マイナス負債で計算される。日本の「固定化されない自己資本」とアプローチは似ているが、資産に含む外貨に対するヘアカット等細かい部分で違いがあり、米国会計基準上の Net Capitalともニュアンスが違うらしいので、そういう意味で大まかに理解していただきたい。}


しかし、ボード{NFAの本改正案提案者}は引き続き証拠金レベルについての調査は継続し、最終的に違う形での提案をおこなうべきであることは認識し、その調査は次の2点に焦点を当てた。 一つ目は、IMMの証拠金と当規制におけるそれとどのように比較するかで、2つ目は、個々の業者によっておこなわれるレバレッジの実態の調査研究である。現在のIMMの証拠金は当時セクション12が採択されたときに比べかなり高くなった。 2008年12月24日時点で、メジャー通貨の証拠金の平均は5.6で、レンジは3.5%から8.2%であった。その他の通貨の証拠金は、IMMでは8.1%であり、そのレンジは、3.2%から12.5%であった。

取引所の証拠金と比較して、必要証拠金の主目的はディフォルト(返済不能)を起こす顧客の損失を業者がこうむることを防ぐことである。また、その額が大きくなると、その業者のみならず、その業者に預託している他の顧客の資産にまで影響を与えかねない。

業者の調査、これには不足が発生する前に顧客のポジションを決済するシステムを採用している業者も含むが、その結果にもとづき、取引所の必要証拠金にくらべかなり低いが、NFAは1%、4%の必要証拠金のままで業者とその顧客にかかるリスクに対応できると現時点では判断する。

一方、NFAは高いレバレッジによって容易に、顧客が想像するよりも早いスピードで、顧客資産が消滅(その結果強制ロスカット)することを憂慮する。業者21社中、例外対象となる{150%以上の資本金を持つ}8社のうち、1社は700倍のレバレッジを提供している。4社は400倍、2社は200倍そして1社が50倍である。例外規定に属さない業者のうちの1社も50倍である。より高いレバレッジを提供するほどより多くの苦情がNFAへやってくる。50倍のレバレッジの業者にそういうことはおきていない。

これらの統計から、100倍をこえると濫用{広義での管理上の不能状態と理解するが}が始まり問題が発生し始めることを示唆している。本修正案は、1%、4%はそのままだが、例外規定をはずした。本修正後においては、いかなる業者にもメジャー通貨において100倍を超えるレバレッジを顧客に与えることは許されず、それ以外の通貨は25倍までとなる。これにより、業者の資本金規模にかかわらず、しかし、その資本規模であるがゆえに、IMMのそれよりもより高いレバレッジを提供できる状況は維持される形でのOTCのFX事業環境が約束される。

NFAのFCMアドバイザリーコミッティーもこの修正に同意している。NFAはまた、この修正案を業者に送り、そのうち8社から意見を受け取っている。大きな顧客を抱える1社はこの修正案に賛成している。その業者はメジャー通貨を50倍のレバレッジでおこなっている。この業者は、顧客からさらなるレバレッジを要求されても、それは顧客の利益に合致しないとしてはねつけている。もうひとつの業者は、例外規定の削除に賛同している。しかし、レバレッジは200倍までを望んでいる。海外の業者との競争上の視点からそう主張する。他の5社もレバレッジを100倍にすることで国際競争力を失うと危惧している。今回の修正案に反対する意見のいくつかが国際的にレバレッジは200倍であると主張する。200倍は許容範囲であるという。ほかにも、ハイレバレッジを利用して近接したストップオーダー(close-in stop order)を置けるという利点を失うとして反対する業者もある。

寄せられるコメントには、その他の代替案も提案されている。たとえば、有効なリスクマネジメント機能を提供する場合は例外として200倍を認めるとしてほしいとか、米国居住者に限ってほしいとかである。しかし、こういう例外を作ることは更なる問題を引き起こしかねない。

最後に3つの手紙が取引所の証拠金体系とOTCのそれとの比較において問題を提起している。これらの手紙は、業者が取引所取引にくらべOTCにおいては、さらに大きなコントロールを有する3つのポイントを指摘している。業者のシステムは一般に自動的に顧客のポジションをロスカットすること。OTCのFX市場は連続すること。つまり、当日のクローズと翌日のオープンにギャップがないこと。そして、マーケットメイキングにより価格の管理能力が働くことである。

これらのコメントを精査した後、NFAは今回の修正が、業者の提供するレバレッジにおいて、顧客保護の観点から最善であると判断する。上記説明のとおり、取引所との違いについてはすでに考慮されている。そして、その結果OTCにはより高いレバレッジを与えることとしている。

競争の観点の問題については、現在2社が自らレバレッジ50倍とし、例外規定に適応していない業者は100倍でおこなっている。これは、100倍の規制があっても市場で受け入れられることの証左と考える。さらに、レバレッジ規制によって、close-in stop loss orderを置く行為が困難になる問題は、むしろNFAが懸念する、ハイレバレッジにより顧客が理解する以上のスピードで一気に資産を消滅させてしまうという問題が解消されるという効果があると認識する。

以上、NFAはコミッションに対して本修正案を認めていただくようお願いする次第である。

{最後フッターにこうある。}
* The proposed amendments to NFA Financial Requirements Section 12 and the Interpretive Notice regarding Forex Transactions become effective November 30, 2009.
FX取引にかかるNFAフィナンシャルリクワイアメント、セクション12についての修正提案と、解釈上の説明は2009年11月30日から有効となる。