日銀総裁、金融緩和の出口「なお見極め」 時期言及せず
日銀は19日に開いた金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策の現状維持を決めた。植田和男総裁は同日の記者会見で物価2%目標の持続的な実現に向けて「確度は少しずつ高まっているが、賃金と物価の好循環をなお見極める必要がある」と述べた。マイナス金利政策の解除など緩和の出口を巡っては日銀内に温度差もあり、慎重に判断する構えだ。
金融市場ではマイナス金利政策の早期解除観測が浮上していたが、日銀は見送った。長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)についても、長期金利の上限のめどを1%とする現在の運用の継続を決めた。金融政策の先行き指針(フォワードガイダンス)も変えなかった。
日銀は物価の基調の高まりに手応えを感じている。植田総裁は輸入物価上昇によるインフレ圧力について「ピークアウトしつつある」と語る一方で、賃上げなどによる物価押し上げについて「これまでの見方に沿って上がってきている」と述べた。物価高の主役が原材料高などから賃金上昇に移り、より持続的で安定的な物価上昇が見通せるようになりつつある。
一方で、金融政策の正常化に踏み出すかについては「もう少し(賃金と物価の)情報をみたい」と語った。四半世紀続いた低インフレから抜け出す千載一遇のチャンスをつかみかけているのがいまの日銀だ。出口を急いで物価の基調を腰折れさせないように、できるだけ「確度」(植田総裁)にこだわりたいというのが日銀の姿勢といえる。
日銀が注目する2024年の春季労使交渉は年明けから本格化する。植田総裁は「労働需給が一段と引き締まり、企業収益の改善が続いている」と期待をにじませた。賃上げの動きが大企業から中小企業などに広がり、物価の基調を押し上げていくのかを見極めていく考えだ。
経団連の十倉雅和会長は18日の定例記者会見で「前年以上の熱量で賃上げをめざす」と述べたうえで、日銀に対して「できるだけ早く正常化すべきだ」と注文をつけた。
金融市場では24年1月や4月のマイナス金利政策解除を予想する声が多いが、日銀内の見方は分かれている。「賃金と物価の好循環へのデータはそろってきており、マイナス金利を解除できる環境との判断は早期にも可能だ」(関係者)との意見がある一方で、実際の賃上げ動向を確認すべきだとの慎重論も残る。
マイナス金利政策解除は大きな決断だけに、多くの慎重論を押し切って強引に決めるわけにはいかない。新しいデータを丹念に確認しつつ、意見をすりあわせていく作業がこれから本格化する。
植田総裁は7日に国会で「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになる」と発言し、市場で金融政策の早期正常化観測が高まった。植田氏は19日の記者会見で、発言は「今後の仕事の取り組み姿勢について、一段と気を引き締めるというつもり」のものだったと釈明した。
日銀は2024年3月19日にマイナス金利政策を解除し、17年ぶりの利上げに踏み切りました。政策修正を議論する場である金融政策決定会合に関する最新ニュースと解説をまとめています。
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