コンテンツにスキップする
Subscriber Only

クレディ・スイスのCoCo債、なぜ価値を失ったのか-QuickTake

From
  • 銀行の資本比率が事前に設定された水準を下回れば評価は切り下げ
  • 一部のAT1債保有者、資本構造の序列考慮されなかったため猛反発

偶発転換社債(CoCo債)は「その他ティア1債」(AT1債)としても知られ、手りゅう弾が付いた高利回り投資と表現されることが多い。UBSグループによるクレディ・スイス・グループ買収では170億ドル(約2兆2400億円)規模のCoCo債で手りゅう弾が放たれた。これは欧州債務危機を契機にCoCo債が誕生した際の理念に沿ったものだ。

  CoCo債は銀行債の最下層に位置付けられ、好況時にはリターンも大きいが銀行経営に大きな問題が起きた際には最初に痛みが生じる分野の一つとして設計されている。同行CoCo債の価値消失は統合新銀行のバランスシート強化につながるが、CoCo債市場には災いを及ぼす恐れがある。

1. CoCo債券とは何か?

  本質的に債券と株式を掛け合わせたようなもので、破綻防止のための規制順守に向けた銀行の資本強化を支援する。CoCo債は、銀行の資本レベルが一定の水準を下回るとステータスが変わり得るという意味で偶発的だ。また資本不足が大きければ、資本(銀行の株式)に転換できることが多い。CoCo債の一部または全体の価値が引き下げられる場合もある。

2. CoCo債は何のためにあるか?

  CoCo債は銀行破綻時に納税者に負担を強いることがないように負債・資本バッファーの一部を構成する。考案された当時は過剰なレバレッジへの懸念が強かったため、増資が不要で大きな資本のクッションになると想定されていた。規制当局にとっては、納税者に負担をかけず、既存株主を希釈化せずに金融機関を窮地から引き上げる方法だ。

3. クレディ・スイスはどれほど保有していたか?

  ブルームバーグのデータによれば、クレディ・スイスにはスイス・フランや米ドル、シンガポール・ドル建てで13本のCoCo債があり、発行残高は計173億ドル。同行の負債総額の2割強に相当する規模だ。発行額が大きいCoCo債は米ドル建てで、20億ドルの永久債は7月に繰り上げ償還(コール)、22億5000万ドルの債券は12月にファーストコールが行われたかもしれない。通常、CoCo債に明確な満期はないが、銀行は発行から約5年後に早期償還が可能なことが多い。

4. クレディ・スイスのCoCo債はなぜ価値がゼロになったか?

  UBSによるクレディ・スイス買収合意は、世界の金融市場全体に広がりかねない信用危機を食い止めようとスイス政府が仲介する形で成立した。スイスの連邦金融市場監督機構(FINMA)がウェブサイトに掲載した声明によると、 異例の政府支援ゆえに、中核的自己資本拡充のためクレディ・スイスの「その他ティア1債」(AT1債)の価値はゼロに切り下げられる。

  簡単に言うと、銀行は経営が立ち行かなくなった際に効果的な破綻処理を支えるため、「MREL」と呼ばれる自己資本・適格債務の最低基準を満たす必要がある。銀行の資本比率が事前に設定された水準を下回れば、CoCo債の評価は切り下げられる。 

5. 投資家は評価引き下げを懸念していたか?

  イエスだ。合意発表前の数時間にクレディ・スイスのCoCo債は激しい値動きを示していた。当局が同行の一部または全体を国有化し、AT1債を完全に無価値にするか、あるいはUBSによる買収で債券保有者には全く損失が生じないという2つの相反するシナリオが想定された。政府が統合の後押しで介入したため、最終的にはその両方が少しずつ実現する形となった。クレディ・スイスのCoCo債はどれも株式転換型ではなく評価切り下げ型のため、損失のリスクは常にあった。

  投資家は、クレディ・スイスのいわゆる「ベイルイン」で優先債が資本に転換される一方、AT1債は評価が引き下げられることを心配していた。両タイプを含む同行の社債発行残高は約780億スイス・フラン(約11兆円)だった。

6. 一部の債券保有者はなぜ怒っているか?

  通常の減損処理のシナリオでは、AT1債で損失が生じる前に株主が最初に痛手を受ける。これはクレディ・スイスも先週の投資家向けプレゼンテーションで言及していた。しかし政府が仲介した今回の合意では、クレディ・スイスの株主が30億フラン相当のUBS株を受け取ることになっている。

  一部のAT1債保有者は同行の資本構造でCoCo債が株式より上にくる序列が考慮されなかったため猛反発した。これは債券保有者が株主より優先的に支払いが受けられることを期待する市場にとって、大きな問題だ。

7. CoCo債市場全体にどのような影響を与えるのか?

  AT1債が損失を出す前に株主が最初に痛手を受けるという市場の慣例を無視する今回の決定は、2750億ドル規模のAT1債市場に大打撃となって、他の金融機関のCoCo債見通しに深刻な疑念が生じる恐れがある。これに追い打ちをかけたのが、今回はAT1債市場で過去最大の損失となり、その規模はCoCo債の価値が消失した他行のケースを大きく上回ったことだ。

  2017年に破綻回避でスペインのサンタンデール銀行に買収された同国ポプラール・エスパニョール銀行のジュニア債保有者が被った損失は13億5000万ユーロ(現在の為替レートで約1900億円)。当局はCoCo債の評価額を強制的にゼロにしたが、株式も無価値となった。クレディ・スイスの評価損はそれよりもはるかに大きく、市場で今後何が起きるか深刻な問題が持ち上がらざるを得ない。

  この大きな不確実性は金融機関のあらゆる格付けの債券で価格の重しになる可能性が高い。ここ数週間、いくつかの金融機関の健全性を巡る不透明感が既にCoCo債価格を押し下げていた。平均的なAT1債価格は額面の82%の水準にあり、過去最大級のディスカウントだ。クレディ・スイスCoCo債利回りはここ数日、ディストレスと見なされる水準に急上昇していた。

Bank CoCos Drop When Risk Rises | Europe lenders' CoCo bonds typically plunge during volatility
 
 

関連記事

原題:Why $17 Billion in Credit Suisse ‘CoCos’ Got Erased: QuickTake(抜粋)

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE