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為替コラム

『FRB議長交代、「雇用」最重視が円相場に影響も』 ― 中野哲也氏

2013年11月21日(木)

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米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、米国にとどまらず世界経済全体の「守護神」という使命を負う。野球の抑え投手(クローザー)と同様、状況に応じた臨機応変の配球と、ピンチでも動じない冷静さが必須条件である。一言一句、一挙手一投足をグローバル市場が注視しており、失投は許されない。そのFRB議長に、「チームUSA」を率いるオバマ大統領はジャネット・イエレン副議長を起用した。今年創設100周年を迎えたFRBの歴史の中で、初の女性クローザーが登板する。
FRBの最高意思決定機関である連邦公開市場委員会(FOMC)の中でも、イエレン氏は金融緩和に積極的な「ハト派」に色分けされる。このため、市場関係者の間では「グリーンスパン前議長、バーナンキ現議長に引き続き、イエレン次期議長も金融政策で景気を下支えしてくれるだろう」という期待が高まる。

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ワシントンの米FRB本部 (筆者撮影)

この「イエレン・プット」というべき思惑から、ニューヨーク市場のダウ平均株価は史上最高値を更新した。それによってドル買い・円売りが強まり、円相場は2カ月ぶりに1ドル=100円台に下落。東京株式市場では円安が好感され、日経平均株価は「5.23暴落」前の1万5,000円台を半年ぶりに回復した。
果たして、「イエレン・プット」で日米同時株高、ドル高・円安の流れは継続するのか。それとも、次期議長を祝福するだけの「御祝儀相場」で終わるのか。市場関係者の間でも見方が分かれるところだ。筆者は、雇用を最重視するイエレン氏の経済学者としての信念が今後、為替相場に映し出されると予想する。それが、今の「イエレン・プット」には死角になっているように思う。

■トービン門下の優等生、夫はノーベル経済学賞アカロフ氏

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ジャネット・イエレン 次期FRB議長 (出所)FRBホームページ

イエレン氏は米ニューヨーク州出身で67歳。エール大で経済学博士号を取得後、FRBのエコノミストになり、切れ味鋭いマクロ経済分析で頭角を現す。同僚のジョージ・アカロフ氏(2001年ノーベル経済学賞受賞)と結婚後、カリフォルニア大バークレー校教授を経て、民主党クリントン政権時代のワシントンでFRB理事や大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を歴任。共和党のブッシュ政権時代には、サンフランシスコ連銀総裁に就任。2010年からはFRB副議長としてバーナンキ議長をしっかり支えてきた。イエレン氏は米国を代表する経済学者であると同時に、ワシントンで抜群の実務能力を発揮している。

FRBは日銀など他の中央銀行と同じく「物価の安定」を追求するほか、それと矛盾しかねない「雇用の最大化」も法律で義務付けられる。いわゆるデュアル・マンデート(二つの任務)である。
このうち、イエレン氏は雇用を重視するハト派として知られる。例えば、二つの任務のどちらかを優先しなくてはならない厳しい状況下では、物価が目標を上回って上昇していても、失業率を引き下げる政策を選択すきだとの考えを示している。
イエレン氏はエール大で失業のコストとその原因を研究し、博士号取得の際にジェームズ・トービン教授から指導を仰いだ。株式投資の指標となる「トービンのq」や投機的な通貨取引に対する「トービン税」にその名を残す同教授は、ケネディ、ジョンソン両大統領のアドバイザーとして失業や貧困問題などで影響力を発揮していた。このため、イエレン氏は「政府と特に中央銀行は失業率の低下に貢献できる、という師の信念を受け入れた」(2013年10月9日米紙ウォール・ストリート・ジャーナル電子版)とされる。なお、安倍政権で内閣官房参与を務め、アベノミクスやその柱となる異次元金融緩和の理論的支柱とされる浜田宏一エール大名誉教授もトービン門下生である。

■FRBこそが「雇用の最大化」を追求する唯一の機関

イエレン次期FRB議長の政策スタンスを占う上で、今年2月にワシントンで行われた講演が大きなヒントを与えてくれる。
冒頭、イエレン氏は「合衆国憲法にも労働省の使命に於いても、雇用の最大化は書かれていない」「FRBこそが雇用の最大化を追求する唯一の機関である」と自らの使命を力説した。さらに、足元の雇用情勢について「米国の労働者に厳しい困難を強いた長いリセッション(景気後退)の後も、景気の回復力が弱いため、今日の大半の労働者が初めて経験する最も厳しい5年間が続いている」との認識を表明。その上で、(1)最大レベルから程遠い雇用(2)2%目標、あるいはそれを下回る物価上昇―が続くなら、金融政策は雇用最大化の実現を中心に据えることが適切だと明言した。
最後に、経済のグローバル化や技術革新が長期にわたり、米国の労働者に試練を与えると指摘した上で、イエレン氏は「今回の回復の遅れで労働者が直面している困難をFRBの同僚と私は十分認識している。我々は経済の強化や雇用の拡大、全労働者の待遇改善を促進するため、努力を続けていくことに積極的に取り組んでいく」と締め括った。労働者に対する経済学者の優しさや良心に満ち溢れたスピーチである。
11月14日、イエレン氏は次期FRB議長として承認を受けるため、米上院銀行委員会の公聴会に臨んだ。この中で、量的緩和第三弾(QE3)の出口戦略について「景気回復の勢いが強まれば、最終的にはFRBは金融緩和策を縮小していくことが可能であり、資産買い入れのような非伝統的な政策ツールに頼る度合いも減らしていける」と証言。同時に、「現時点では景気回復を支えることが、より正常な金融政策に回帰する最も確かな道筋であると確信している」とも強調した。出口戦略を急がない姿勢を市場は好感し、株高・ドル高が加速したわけである。

その一方で、イエレン氏は雇用に関しては「危機と景気後退で失われた地盤を取り戻すためには、まだ進んでいかなければならない。失業率はピーク時の10%から低下したが、10月の7.3%という数字はまだ高過ぎる。労働市場や経済のパフォーマンスが、本来の潜在的な力をはるかに下回っている」と警鐘を鳴らした。米国の自然失業率は5.5%程度と見られているため、イエレン氏にとって足元の水準は到底容認できないのである。

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(出所)米労働省

■来年は中間選挙、「政治の季節」に強まるドル安・円高バイアス

米国はITや住宅をテーマにしたバブルが崩壊し、「100年に1度」といわれたリーマン・ショックに襲われた。貧富の格差が拡大し、雇用創出は喫緊だが極めて困難な政策課題になった。デジタル化やロボット化などが急速に進み、企業の生産性は向上できる。しかし、それが省力化だけを意味するなら、人のやるべき仕事は増えない。米国に限らず、日本も欧州も中国、その他の国でも同様の問題が深刻化するだろう。
「チームUSA」がその一つの解決策として着手したのが、米製造業の本国回帰である。中国の人件費急騰などを背景に、付加価値の高い製品であれば「メイド・イン・アメリカ」の競争力が甦るというわけだ。当然、米国内で製造業の雇用が復活する。

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雇用拡大の圧力を受けるホワイトハウス (筆者撮影)

実際、アップルが先に発表した最新鋭パソコンはカリフォルニア州でデザインされ、組み立てられる。中国のレノボグループでさえ、ノースカロライナ州でパソコン新工場を稼働させた。ゼネラル・エレクトリック(GE)やキャタピラーといった多国籍企業が、製造拠点の米国へのリショアリング(再上陸)を相次いで打ち出している。米製造業は2002年まで1,500万人を雇用していたが、リーマン・ショック後の2010年には1,146万人まで落ち込んだ。その後、大変緩やかながら回復しはじめ、今年10月には1,198万人まで戻している。
オバマ大統領は昨年の大統領選で雇用拡大をもたらす「輸出倍増」などを打ち出し、辛うじて再選を果たした。環太平洋連携協定(TPP)交渉を強力に推進するのも、米製造業の輸出先拡大を通じてリショアリングを加速させたいからだ。来年11月の中間選挙が迫るにつれ、ホワイトハウスにかかる雇用拡大のプレッシャーは増大する。このため、為替相場については、米輸出産業の採算を好転させるドル安・円高を求める声が強まる。

ワシントンでは、「財務長官が為替相場の唯一のスポークスマン」というルールが厳格に守られているから、イエレン次期FRB議長が雇用最大化の一環としてドル安誘導の「口先介入」を行う可能性はまずない。しかし、イエレン氏を含めてワシントンの当局者が「雇用」を強調する際、市場では「内心ではドル安・円高を望んでいる」と見る向きが多くなるだろう。「政治の季節」お約束のバイアスである。
一方、安倍政権のアベノミクスも異次元金融緩和が円安をもたらし、輸出企業の業績は改善した。同時に、円安はエネルギーなど輸入物価を押し上げたが、賃金の上昇までは確認されていない。このままではコスト・プッシュ型の一時的な「悪い物価上昇」にとどまり、デフレ脱却に疑問符が付きかねない。
前述したように、米国では雇用最大化の観点からドル安・円高バイアスが掛かりやすくなり、日本がこれ以上の円安を期待するのは難しそうだ。為替相場の基調が円安から円高に変わると、輸入物価も再び下落に転じる。すなわち、アベノミクスの「逆回転」が始まるわけだ。このように考えると、外為市場が持て囃すドル高・円安の「イエレン・プット」には、死角があるのではないかと思う。

【お断り】本稿は筆者の個人的な見解であり、所属する組織とは一切関係ありません。

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