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柳澤義治

「為替で人を知り、己を知る」 ―柳澤義治 氏 [後編]

2011年02月23日(水)

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(中編はこちらから)

■「ザ・ギャンブラー」− 手持ちのお金は計算しない

 4番バッターだけで野球のチームが成り立たないように、ディーリングチームも大もうけできるディーラーだけでは成り立たない。私がディーラーをリクルートする場合には、自分とは違うディーリングスタイルの人で、自分が持っていない部分が得意な昔の仲間に声を掛けるケースが多かった。それだと、様々なマーケットに対応できるし、ダウンサイドも決まってくるからだ。

私には、噂のディーラーや伝説のディーラーよりも、一緒に仕事をして、自分の目で見ていたディーラーのほうが信用できる。そして面接では、どれだけ儲かったという話よりは、損をしたときに、どうやって取り戻したのかを聞いて、打たれ強いかどうかを確認したりするほうを重視していた。

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皆が皆、ホームランバッターである必要はないのである。私の場合は、様々な通貨ペアをフォローし、500ポイント、1000ポイントといった大きな相場を年に何回か取るよりは、100ポイント、200ポイントをこまめに取りにいくことを心がけてきた。だから生き残ってこられたと思う。

もうひとつ、自分のポリシーとして、途中で儲けは計算しないことにしていた。損しているときは、緻密に計算して、ストップロスに引っ掛かってしまうかどうかチェックをしなくてはいけないけれど、利が乗っていて本当に自信があるときは、不思議と儲けの計算はしたいとも思わず、冷静に相場を追うことができた。途中で儲けを計算したくなる時というのは、そろそろ手仕舞ったほうがいいかもしれないと、自分のどこかで考えているからだと思う。そのような時は、すぐにポジションを締めるようにした。

米国の歌手、ケニー・ロジャースの、「ザ・ギャンブラー」という曲がある。ポーカーをやっている最中は、自分の手持ちを計算するなという内容の歌詞で、為替はギャンブルではないが、為替ディーラーの心持にも大いに通じるところがある。手持ちのお金を計算すると、そこでツキが逃げてしまうのかもしれない。損するよりは儲け損ねたほうがいい。やはり「利食い千人力」の気持ちが大事だ。

■ポンド・クロスのエキスパート

 私にとっても、最も印象的かつ大きなやりがいを覚えたのはポンドの相場だった。バンカース、BHF、アムロ、を経て移籍したHSBCはイギリス系だったので、特にポンドに力を入れていた。かつて、アジアでもマーケットメイキングしている銀行もそれなりにあったのだが、ただでさえ流動性が低い上に、ベアリングの倒産で一層マーケットが小さくなっていた時だったので、少額の取引で相場が大きく動いてしまう、やりづらい通貨になってしまっていた。そのような時に私が担当せざるを得ない破目になった。

しかも、私が担当したのはポンド・クロスで、ポンド円、ポンドマルク、ポンドリラ、ポンドパリ、ポンドペセタ、ポンドランド等々ありとあらゆる組み合わせを出すことになった。自分はババを抜いたと思ったが、これもチャレンジだ!と気持ちを切り換えて一生懸命やることにした。

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ユーロ誕生の前でもあり、とにかく広範囲に通貨を見なくていけないばかりでなく、現在のようにコンピューターが自動的にレートを生成してくれるわけではなかったので、エクセルを駆使して、瞬時にレートを出すのはとても大変なことだった。気がつくとアジアでポンド・クロスのマーケット・メークをしているディーラーは片手にも満たなくなっていた。しかし、どのような時でもレートを出し続けた結果、いつしか他行からのオーダーも増え、相場が荒れたときなどには特に頼られる存在になっていたと思う。数少ないポンドクロスのエキスパートとして、マーケットに認められたのは、ディーラー冥利に尽きることだった。

為替の仕事をやって良かったのは、市場は常に公平だということだ。多くの仕事は、経験のあるなしや、その長さで判断されがちであるが、為替は、正しい相場観を持ち、正しい判断ができれば、20年選手であろうが、1年目の新人であろうが、儲けることが可能な非常に公平な世界だ。正しい相場観、正しい判断に報いてくれる仕事であったからこそ、私は長く続けてくることができた。それが何よりも一番だったと思っている。

■為替市場の将来を議論すべき

 私が、個人的に、心配しているのは、今後の為替市場そのものの行方だ。現在FX業者さんが出しているようなたくさんの通貨のレートを常時出し続けるというのは、システムでなくてはできない。しかし、例えばプラザ合意やリーマンショックのような大事件が起こり、マーケットが壊れてしまった時などには、システムだけでは瞬時に対応することはできない。

10年程前までは、銀行をはじめ、非常に多くの参加者がポジションを取っていたから、売り一色のときでも買う人は出てきていた。つまりマーケットが円滑に成立するためのショックアブソーバー的な役割をしていた。だが、もう銀行ではポジションを積極的に取ることがなくなってきてしまっている上、人材も育てていない。他方で、個人が積極的にFX取引を行っている。つまり、リスクテイキングがインターバンク取引を中核とした為替市場の外側移ってしまい、ドーナツ化現象が進行している。

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現在では、まだ経験のあるディーラーが市場にいて対応できるし、そのマーケットの状況で色々なパラメーターを変えて、調整するノウハウを持っている人たちも残っているが、これから10〜20年先は、果たしてどれだけこういう人たちが残っていていることだろうか。われわれのように、徒弟制度の中でディーラーになった人間というのは、今ではもう古い世代であるが、そういった時代のノウハウも含めて蓄積していかないと、為替市場を維持していく上で大問題になるのではないだろうか。

つまり、もし為替市場が正常に機能しなくなったら、貿易やクロスボーダーインベストメントといった実需の取引すら立ち行かなくなる可能性があり、ひいては経済全体にとっても大きな脅威となるだろう。為替を愛する者のひとりとして、為替市場の将来を真剣に議論していくべき必要があるのではないかと思っている。そして、市場の中核を担う銀行ディーラー諸氏には一層の奮起を期待したい。

為替の将来を憂慮する一方で、楽しみなこともある。それは、FXが個人の方々に広まっているということ、そしてまじめで勉強熱心な方が多いということだ。最近では、セミナーの講師をさせていただく機会が増えてきているので、こういった場面で、私の経験を基に、個人投資家の方々が成功するためのヒントをお伝えすることにも力を注いでいきたい。

(全編終了)

*2010年12月13日の取材に基づいて記事を構成
 (取材/文:香澄ケイト)

【前編】ディーリングという狩りの中で
【中編】自分の相場観とスタイルを持つ
【後編】公平なマーケットに報われて

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プロフィール

TheFxACE

TheFxACE(ザ・フェイス)企画チーム / TheFxACE

為替ディーラーのご経歴を持つ方々に、ご自身の生き様や相場に対する考え方などをお伺いしていきます。

[取材/文]
香澄ケイト(かすみ・けいと)/外為ジャーナリスト

米国カリフォルニア州の大学、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国後、外資系証券会社で日本株/アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事。退職後、株の世界から一転して為替証拠金取引に関する活動を開始し、為替サイトなどでの執筆の他にラジオ日経への出演およびセミナー等の講師も努める。

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