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FXダイアリー

[第216回] ストレステスト(2の1)

2016年02月08日(月)

1.ストレステスト

(価格変動と流動性)

現実的に見た場合、”市場の流動性が十分である限り”、かつカバータイミングがどうであれ顧客のカバーに徹する限りにおいて、FX業者のディーリングデスクが負うリスクは、「ない」と言い切れる。しかし、問題は“市場の流動性は常に十分な状態を維持しているとは限らない”ということである。今年でそういう事態が2回も起きた。1月のスイスショックと8月のチャイナショックである。しかしどちらの場合もすべての業者においてその日のディーリング収益が赤字になったという話は私の耳には届いていない。むしろいつもよりも儲かったという話はよく聞く。その事実に特に驚きはしない。むしろそうだろうなと思う。

それが実現する条件は、顧客の強制ロスカットが大量に発生した時に業者がつけたレートよりも業者に有利なレートに市場が回復するという事象が発生することであり、その過程で業者はカバーをしない判断をしたか、したくてもできなかったということが起きた時である。例えば、相場が120円の時にドル円の相場が急落し(円高になり)、最安値115円になったとした場合で、大量な強制ロスカットが平均値として116円(一応120円の−4%に近づいた状態を想定)だったとした場合、業者は116円から115円までの間1円分の大きな評価損に耐える時間が発生する。その後、相場の調整、俗に「半値戻し」が始まり、117.50円でカバーを完了すると、大きな利益、1円50銭(117.50−116.00)を確保することになる。これはOTCのビジネスとして何らおかしな話ではない。業者がこのパターンで大きな利益を得たとしたらそれは客に116円で約定した後の時間帯に負ったリスクに対する正当な報酬である。問題は、客の強制ロスカットを116円で行った根拠(これについてここでの深堀は割愛する)と、その後の相場の戻しがなかったらどうなっただろうかというシナリオである。例えばそのまま110円まで下がっていったらどうなっていたであろうか。さらなる強制ロスカットを巻き込みながら、業者のポジションはどんどんとロングが膨らみ、評価損が膨れ上がっていく。そうならないように客の強制ロスカットの約定レートが先付STPにより多少のスリップをしながらもうまくカバーし続けていれば、ネットポジションは一定の損失を出しつつも“アンダーコントロール”ということになるが、カバーするべき流動性もままならず、システムが自動的に、カバーできもしない無責任なカバー先からの気配レートを使ってロスカット注文を約定させていると、やがて(とはいってもあっという間に)業者のブロッター画面上には受け入れがたいほどの評価損失が積みあがることになる。幸いこのパターンは現実化していないのだが、もしそうであった場合どこまで耐えられるかというシナリオは考えておいて損はない。近年そういうことを考えて準備しておかないと危ないのではないか、という相場変動が多いのだから。

仮に、上記のようなシナリオがEEモデルの業者で起きると、客の強制ロスカットレートがもっと悲惨なことになる。要約すれば、IEモデルはある程度業者が投資家と“損を分け合える”モデルであるがEEは“全部”客に行く。その結果、EE業者は「ディーリング損失」からは逃れられるが、その後に証拠金不足となった顧客から不足額(立替金)を取り立てられず、結局「与信リスク」の顕在化で泣きを見ることになる。これが昨年米国FXCM等で起きた。必ずしもEEモデルがIEモデルより優れているとは言えない部分である。はっきり言って契約は店頭だがカバーは限りなく取次ぎモデルというEEモデルは業者が貧乏くじを引きすぎなモデルとなってしまっているように見える。

どういうストレステストをするべきか、それをやるためには稼働するシステムにどういう仕掛けを付加する必要があるかなど考えなくてはならないことは多い。本気でやれば人も金も時間もかかる。最終的にそのストレステストのシナリオは評価するに値するのか、そしてその結果をどう評価し、どういうリスクヘッジをするべきなのか、どういうリスク管理規定を設けるべきなのか、さらにその規定は実際の運用が可能なのか。そういうことを考えだすと複雑極まりない。

どういうモデル、あるいはモデルミックスがいいかなど簡単には言えない。それを決めるにはもっと具体的な情報、前提が定義されないと無理だから。例えば、どういうLPがいるのか。実際に業者が手に入れている流動性の質の評価と分析結果、顧客に出すレートに乗せているマークアップの妥当性、客の約定を決定するルール、スリッページを与えるときのルールと実際のスリッページデータ、強制ロスカットのルール、価格決定ルール、カバーのルールなどなど、ひとつとしてあいまいにできる条件はない。すべて正確にシミュレータに同期させながら、それぞれのシナリオを実践で試し、それらの最適化ミックスを図る以外に「これがベストです」と胸を張れるモデルを作る自信はない。最大の難題は、カバー先からもらうレート、シミュレートに使うレートは約定拒否の可能性をはらむラストルック(Last-look*)プライスだということである。ある過去の一時点で配信されたレートで欲しいだけの量をカバーできたかどうかは検証不可能なのである。これはシミュレータに入れることができない。カバーする市場が拒否のない市場*だったらその精度はさらに上がるが、それは無理な注文である。

*一般にOTCの市場でマーケットメイカーが出すレート(Streaming Quotes)は業者から注文を受け付けた時点で成立、不成立を判断する権利を持っているため、約定は保証されない。これを指してLast-lookと呼ぶ。反対に取引所取引かそれに相当するマッチングエンジンモデルの場合はその「場」において売値と買値(Limit Orders)がマッチしたら、その数量分は必ず約定するためNo Last-lookと呼ぶ。日本ではFast Match とIntegralが提供している。むろん、CME等の先物為替市場もマッチングエンジンなので、No last-lookである。取引所取引は全部No last-lookである。

(通貨リスクの伝播)

通貨のリスクは通貨単位で発生する。通貨ペア単位ではない。スイスショックの時のように、CHFで発生したショックは、EURCHF、USDCHFCHFJPYといった片側にCHFをもつ通貨ペア全部に伝播する。しかしその影響度はそれぞれの通貨ペアが持つ基礎的な流動性によって微妙に違うかもしれない。スイスショックの時、EURCHFで30%の下落をした時間帯にCHFJPYも30%程度上昇した。

以前にも触れたが、現在のレバ規制は通貨に関係なく4%、すなわち25倍であるが、この点合理性がない。CFTCはスイスショックの直後「CHF」の証拠金率を引き上げるよう会員に命じた。市場リスクはアメリカも日本も関係なく等しくのしかかるのだから、日本だけ相変わらず4%フラットのままというのはどうかと思う。「規制の体制」の違いという理屈では納得できるものでもない。ほんとにこんな感じでいいのだろうか。対岸の火事だから、などとだれも思ってはいないはずなのだが。

通貨ペアごとではなくて、通貨ごとに最低証拠金率(レバ規制の基準となる率)を宣言し、それを市場の変動に合わせて臨機応変に変更し、業者に従わせるという運用はあってしかるべきだと思う。上記の例でいえば、CHFは4%から8%に引き上げる、となれば、CHFXXXもしくはXXXCHFの通貨ペアは全部8%になるという意味である。

(キャッシュフローリスク)

ストレステストの対象は相場変動によるディーリング損益だけではない。その結果発生するキャッシュフローまで見なくてはいけない。信託から戻ってくる顧客の損失分=業者の自己資本と、LPに対して支払うこととなった決済額の過不足もシミュレートしなくてはならない。カバー先の銀行は、平気で証拠金率を引き上げることがある。払えなければ強制的にポジションをカットされたとしても(そこまでドラスティックな対応はいまだ聞いたことはないが)文句は言えない。

「うちは今のやり方が心地いい」というのはわかるが、「うちの今のやりかたが『最適』です」というにはこういう最適化モデルミックスを探せるシミュレータ兼バックテスト兼ストレステストができる環境がないと説得力がない。繰り返しになるが、もしそれが実現すれば、たとえかなりの費用と時間がかかっても、それは業者にとって大きな利益をもたらしてくれるはずである。ただその投資とリターンの「相関性」が予算を出す責任者の心に響くかどうかである。むろん響いてもらいたいと思う。

▼尾関高のFXダイアリーをご覧のみなさまへ
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Posted by 尾関高

プロフィール

尾関高

尾関高

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、米国インテグラル社の日本支店に勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXにかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引〜取引の仕組みからトラブル防止まで〜」(同友館、2004年6月)がある。。

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