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[第211回] カウンターパーティの開示義務は必要か

2015年12月17日(木)

かつて、パブコメでカウンターパーティの開示について、PBスキームがある場合はPB名だけでよいかという質問に対して、「カウンターパーティを開示しなさいと言っているのでカウンターパーティ名を開示してください」と回答されたことがある。まったく議論・質疑応答になっていなかったが、当時私の質問の意図が果たして正確に伝わっていたかどうか、今では定かではない。その後このルールは典型的な法律用語の独り歩きを始める。

そもそもなぜカウンターパーティ名の開示を義務付けたかという背景は、2つ考えられる。

1.外為証拠金ビジネスの創世記で登録業扱いでない時代において、「インターバンクからのレートをもらってカバーしている」と言いながら実はどことも契約しておらず、適当なレートを出して、当然カバーもしないで呑み行為に徹するいかがわしい業者が横行したということ。

2.信託義務化されていない時代、お金を預ける個人として、その業者がバランスシート上に持つ与信リスク先がどこになるかは気になるところであること。つまり、個人が預けたお金が、その業者の名義による委託証拠金としてA銀行に預けられるとすると、A銀行が破たんすれば、その業者も連鎖倒産し、自分のお金が返ってこないというリスクを勘案するにこの情報は意味があったということ。

これらの時代背景によりカウンターパーティ名の開示を義務化することで、いかがわしい業者に対しての抑制力が生まれるとともに、投資家は当時信託義務が強制される前において、お金を預けて大丈夫な業者かどうかをそれにより判断することができた。

さて今はどうか。前にも書いたが、どこの業者もカウンターパーティ名の開示は深いところでしているが、わかりやすい場所で開示するところはほぼない。これは本来、レストランでいえば店の軒先に掲げてもらいたいものだが、どこも今は口座開設に進む過程か、へたすると開設した後でしか見えない場所に書いてあったりする。つまり店に入ってから注文するときに見えるか、あるいは会計するときにしか見えない。これは本来の目的に合っていない。

次に、今や信託は義務化されている。それでも業者のバランスシートにどういう与信リスクがあるかは見るに越したことはない。その場合必要なのは、「カウンターパーティ名」ではなくて、「与信先」となるので、PBスキームを導入している場合はその名前を開示してもらわないとおかしい。たとえば、PBはC銀行でそのスポークバンクにD銀行とS銀行がいる。そしてダイレクトLPとして決済口座をU銀行とB銀行に持っているとした場合、与信先は、C銀行,U銀行,B銀行Sの3行となる。DとSには与信リスクはない。与信リスクだけを考えるなら、これら3行の名前で十分であるし、あくまでも与信関係相手としてそれらであるということを見る人に誤解のないように書かないといけない。よく「取引先銀行」と「カウンターパーティ」を一緒にして考える人がいることはそのいい例である。それらが違う意味だということの説明は割愛する。

最後にカウンターパーティであるということを上記の例で開示すると、それらは、全員となるが、それを開示する意味が今の時代であるかないかといえば、私の答えは、「ない」である。上述の通り、現在の開示レベルが奥まっているにもかかわらず誰も何も言わない現状も、「ない」を支持していると思われる。

繰り返すが、今はもう「カウンターパーティ」というラベルで開示してもあまり意味をなさないか、誤解すら生むようになったのである。客である投資家にとってその業者がカバー取引をする相手がどういう面々であるかを知ることは悪い話ではない。が、それを開示してもらっても投資家の取引スタイルや口座開設判断とはなんら関係ない。上述の通り、それは決済口座をもつPBやダイレクトの相手だけで十分である。

見方を変えると、かつて「カウンターパーティ」という名詞は、かならず<流動性提供者>であり、<決済相手(与信元)>であり、<マーケットデータ提供者>であったが、昨今それらはバラバラに提供されるようになってきたということでもある。さらに、CMEのような取引所をカバー先として使うとした場合をこのルールは想定していない。取引所を含めるなら、「カウンターパーティもしくは取引所もしくはそれに相当する市場の名称」と定義を広げておかなくては整合性がとれない。

その業者が出す投資家向けのレートを作るもとになったレートはどういうカバー先のレートから生成されているかを知る上で大事な情報であるというのなら、むしろ「カウンターパーティ」としての開示ではなくて「投資家向けレート生成の参照元」というタイトルで開示するべきである。なぜなら、中にはブルームバーグを使うこともあろう。ブルームバーグは決して業者のカウンターパーティにはならない。

さらに、最近はFast MatchやIntegralに代表されるような、Private Matching EngineとかECNとか呼ばれる新たなmarket placeがはやりつつある。これは、認可される公的な取引所ではない。与信・決済はOTCのスキームを使いながら、発注・約定自体は取引所取引と同じモデルを使う。これにより約定拒否をなくす(No Last-look pricing)という効果があり、かつ透明性が高まる。これは近年あるメジャーバンクが約定拒否を濫用(?)したことに対してNYで訴訟され、結果敗訴したことを受けて徐々に対応が(意識の上では)進みつつあるようにも見える。つまり、今やダイレクトマーケット(いわゆるLast-look pricing)の流動性提供方法は訴訟リスクがあるという認識に立つことを示唆する。さらにもともとも米国は、SEF+CCPへのモデルシフトを促進しているのでその流れにも合っている。

このECN を使って約定すると、相手はPBの名前だけか、あってもそこに登録されている相手のコード(ニックネーム)しか見えてこない。与信決済リスクはPBが請け負う以上そのPBが行う個々の相手との与信審査にECN ASPは口を出さない。余計な御世話だからだ。その流動性をたたくテイカー側も当然同じスタンスに立つ。業者がこのリクイディティプールをカバー先にした場合は、単純想定としてCMEをカバー先にした場合を想定するのと同じだとするなら、「Fast Match」,「Integral-OCX」となるし、その決済相手を言えと言われればそのPB銀行名となる。このECNに対して実際に取引した相手を言えというのは、CMEや東証で株を買ったら、それを売った相手は誰だと聞くことと同じになるので、ナンセンスである。何が言いたいかというと、「カウンターパーティ名を開示する」というルールが、いまやそれができたときよりも大きく変化した現実の環境に不適合を起こしているということである。もっとはっきり言えば、そろそろ見直す時期である。

こういうカウンターパーティ名開示義務などという、そもそも日本だけの特殊で、欧米の金融業界では理解しづらく、その目的や効果がぼやけたルールはなくてもいい。

ガラパゴスにも良いガラパゴスと悪いガラパゴスがあるなら、カウンターパーティ名の開示は今となっては悪い、といいうよりは「無用な」ガラパゴスであると私は断言してはばからない。あくまでも今まではふとどきな輩を見つけるためのやむをえない時限法だったと思いたい。その意義はもうなくなったのでお役御免としていい。それがだめなら、ルールを以下のように変えたほうが、現在の環境に照らして合理的である。

業者は以下の@ABを開示する義務とする。そして投資家にとってのそれぞれの<意味>を投資家に説明するものとする。個人的にBはもう必要ないと思っているが、一応入れておく。

@[Credit Risk]業者の倒産リスクの観点から受与信・決済先の開示(ダイレクトの決済契約相手、PB契約相手、LG発行元と発行先、公的私的取引所やECNを使う場合はその名称)。

A[Source of Rates]誰のレートを使って投資家向けのレートを生成しているかという観点から、リテールレートを生成するにあたり参照している情報元(カウンターパーティ、情報ベンダー等)

B[Liquidity Pool]カバーのための流動性をどういう相手から確保しているかという観点から、実際にカバーに使う契約をしているカウンターパーティ名あるいは、取引所、ECN名。AとBのリストは同じになることがほとんどだろうが、まれにReutersやBloombergを使っているとその分違いが出る。

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Posted by 尾関高

プロフィール

尾関高

尾関高

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、米国インテグラル社の日本支店に勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXにかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引〜取引の仕組みからトラブル防止まで〜」(同友館、2004年6月)がある。。

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