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自己資本規制比率計算モデルの矛盾

2015年05月15日(金)

業者は日々自己資本規制比率を計算する義務があり、この中に市場リスク相当額の計算がある。これは業者が抱えるネット・オープン・ポジション(NOP)の8%分を狭義の自己資本で担保・保持しなくてはならないという意味である。狭義というのは、「固定化されない」という意味で法により定義されている。

業者は顧客に対して最低でも顧客の保有するポジションの4%を法定維持証拠金として拘束している。反対に業者はCPに対して大体3%から5%ぐらいを証拠金として預託している(LGの与信を使うケースもあるがその場合は預託金はゼロになる。しかしここではそれは考えないものとしよう)。そのお金は自己資金であり顧客の預かり証拠金は使っていない。

一般的な業者のNOPのコントロールとして、一日の終わりにはそれができるだけスクエアになるようにカバーを調整している。日中にNOPが発生することはあっても一日が終わるNY午後5時、日本時間午前7時(NY冬時間)前には市場リスク額が最小になるようにきれいにカバー取引をCPと行って市場リスク額が0円に近づくようにしている(非対円通貨をやっているといくら通貨1(取引通貨)側をスクエアにしてもリスク額を0にはできない)。あくまでも一般的なオペレーションモデルとしてはこういうやり方がされている。

そこでだ。業者のNOPに対して8%を乗じた市場リスク額は果たして破綻リスクを回避するための計算モデルとして有効だろうか。そういう疑問を今回のスイスショックは投げかけている。どういうことか説明するために以下に簡単なモデルを例示する。

業者が、一人の客しか持っていない。客はドル円しかしていない。ただしそのポジションは現在1千万ドルの買いで約定価格が120円だったとする。業者はこの客のポジションを100%1CPでカバーしている。したがって、一日の終わりで計算する市場リスク額は0円である。そして、客はきっちり4%分の証拠金を業者においていたとする。いま突然、ドル円の為替レートが円高になり、30%下落(円高)し84円になったとする。この時顧客のポジションは強制ロスカットになりその値段で約定したとする。客が失った額は3億6千万円になる。

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同じことが業者対CPでも発生したとする。ここでは利鞘の部分は無視する。つまり業者はCPで120円で買ったポジションを同じ84円で決済したとする。したがって業者はCPに対してT+2で3億6千万円支払う義務を負う。CPの証拠金率が5%だったので今現在、業者はCPに対して、6千万円(1千万ドルx5%x評価レート120円)を預けている。最悪でも業者は2日後に残りの3億円を決済代金としてCPに支払わなくてはならない。ポジションはもうないので、これはまるまる決済代金である。一方顧客から預かっていた証拠金は、4,800万円(1千万ドルx4%x評価レート120円)である。整理すると以下の表のようになる。

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ちなみにCPに預けている6千万円は業者の”自分の”お金である。客から預かっている4千8百万円は信託口座に入っている。ここで今客が不足額である3億1千2百円を業者に支払えないと言ったとき(すくなくともT+2に間に合うようには支払えないと言った時)、業者はCPに対して“自腹”で不足分3億円を立て替えなくてはならなくなる。客から預かっている48百万円は信託保全されておりT+2のタイミングでは出金ができるのでそのままCPに払い込める。この時、業者が残りの2億52百万円(3億円―48百万円=2億52百万円)の自己資金(それも現金で)をもっていないと、あるいは緊急融資でもなんでもいいのでメインバンク等から調達できないと、厳しく見れば経営破たんすることになる。

この単純な例が提起している問題点は、(1)市場リスク額は、金融業者が負うすべての市場リスクに対してそれらを合算(ネッティング)してその8%分のリスク額を自己資金(純資産)で担保するという“概念”をもとに構築されているものの、外為証拠金取引業においては日々NOPをスクエアにするという調整を業者がすることでその額をほぼ0に操作することを可能としてしまうという点であり、(2)しかし現実はそれでは本当の担保能力を評価できないということである。(3)さらに言えば顧客から預かっている資金を自身のCPに対する担保、決済代金として流用できないという信託法による流動性の凍結が行われたことにより、それらの証拠金率が等しくないにも関わらず、信託対象となる対顧と自己資金で担保する対CPのポジションをネッティングするという計算モデルが現実に合っていないということである。これらをもって私は現在の金商法の自己資本規制比率のモデルが外為証拠金取引業者に対しては機能していないと考えている。これは昔からの私の一貫した主張である。

あえて誤解を恐れず言えば、本来対顧取引とカバー取引には一定の相関性があるとはいえ、業者を介在して与信関係が対客と対CPで断たれている以上、双方のポジションをネッティングしてはいけないのである(上記#3)。資金が相乗的に活用できないのであれば、リスクも別々にするべきなのである。また、業者が一日一回だけNOPを計算すればよいというルール(上記#1)を利用して日中はIEモデルでカバーを行い(あるいはあまりしないで)、一日の終わりにNOPをスクエアに近づけることで報告するべき市場リスク額をコントロールできてしまうという実態がある以上、この計算モデルに依存した市場リスクのモニタリングには意味がないということである。

ならばどういう方法が望ましいのか。簡単な代替案を提示する。現状のそれはそれで生かしながらさらに追加として、『顧客市場リスク額』を別途計算し、それと上記のそれを比較して大きいほうをとるというモデルにリモデリングする。仮に掛け目の考え方を、顧客のポジションのNOPに10%を乗じた額とし(それでも突然30%もの相場変動があれば同じことだが・・・)そこから信託保全されている額を減じた額とする。上記の例でいえば、

顧客市場リスク額=1000万ドルx10%x120円=1億2千万円
ここから預かっている4800万円を減じると、7千2百万円になる。

上記例の暴落が起きる前日の締め時点では、業者のNOPはゼロであり、よって市場リスク額もゼロ円だったのだがこの計算式では、MAX(7200万円、0円)=7200万円となる。
この結果、業者としては、顧客の不足額のリスクに対して、10%−4%=6%分を自己資金で担保する義務を負うことになる。これはいくら日締めでNOPをスクエアにしても操作不能な額として計算され、リスク額として出てくる。この7千2百万円は言い換えると業者の“顧客潜在未収金立替リスク額”ともいえる。こうすると、そういう立替を業者がしたくないのであれば、客に対して維持証拠金率を10%にするという動機が働くことになる。
また、客のNOPを計算する場合、上の例は一人の客だったが実際には多数の客が売り持ちだったり買い持ちだったりするし、客(甲)の損失を客(乙)で負担することはないのでそれらをグロスで処理することが必要となり、計算式としては、口座ごとに、通貨ごとに(通貨ペアごとではない)、ロング/ショートごとに合算してロング、ショートのどちらか大きい額をとる。そしてその額に10%(仮)を乗じた額を算出する(自己資本規制比率の計算式と同じ)。

この10%−4%=6%は客に対する貸倒引当金に相当する。上記のような一気に相場が30%も動くと6%では歯もたたないが、一般的に法(BIS規制レベルでも)8%を基準としている以上これにすり寄るしかない。仮にそれを30%としたら、ほとんどの業者は立ち行かない。10%でもきつい条件である。客が10万ドルのポジションを建てると業者は客から最低でもその4%分(約48万円)の証拠金を預かるが、同時に自己資本から6%分(約72万円)を計上しなくてはならなくなる。当然なければ金融業を継続できなくなる前提で考える。こうするとたぶん証拠金率を自主的に5%から7%とか10%に引き上げる業者が出てくるだろう。自己資金がなければそうせざるを得ない。

さらにこの計算の結果は現状は月次開示であり、当局への報告も月次(規制比率140%を割っていない限り)だが、それを日次にする。世界的にこうした報告あるいは開示はどんどん月次から日次に変わりつつある。もっと言えば日締め(午前7時)はやめた方がいい。むしろ午後0時とか、午前0時のスナップショットを統計的に計算し記録したほうがよいと思う。市場リスクの計算は何も日次の締めに合わせる必要はない。むしろ活動が活発なタイミングのスナップショットを取る方が理にかなっている。もともと月次報告というのは、銀行や大手証券のような大きな組織で、融資や運用を中長期的にやっているようなところで、日々動きをみてもほとんど変化がないような資産や負債を持っている前提で作られているルールにしか見えない。外為証拠金取引業界はそうではない。前者が長距離走であれば後者は“超”短距離走である。おのずと対応は違って当たり前なはずが、同じ物差しを使ってそれで良しとしていていいのかとついつい気になってしまう。

ちなみにこれとよく似た顧客純資産規制比率の規制は米国NFAでは実施されている。資本金(純資産)のレベルに応じてその掛け目は違うが、発想としては同じで、“業者としてのネットポジションがどうであれ、客から預かった資産のn%分は自己資本から緊急用の引き当て分として担保する”ということである。それをしていても一瞬で30%もマーケットが動いてはどうにもならないことは間違いないのだが、10%程度の急変には動揺しない業界の体質は期待したいところである。

今回私が提案というほどでもないが、現行のモデルの弱点を補うモデルとして提唱するのは、“業者としてのネットポジション(NOP=対顧客ポジション+対CPポジション)がどうであれ、通常の市場リスク額を計算しこれを市場リスク額カテゴリ1とし、一方顧客が保有するポジションのNOPx10%(仮)を計算し、そこから預かっている証拠金を差し引いた額(口座ごとに計算して合算)を市場リスク額カテゴリ2として計算し、どちらか大きい方の額を最終的な市場リスク相当額として計上する”というものである。

これによる影響(良い影響もよくない影響も含めて)は、業者が日締めでNOPを最小にするオペレーションをしてもしなくても市場リスク額は顧客が持つポジションに左右されるためそうした“小手先の”操作が無駄になる。これは今以上に自己資本を分厚くしないといけなくなる。客のポジションが増えれば増えるほど、その額は増えていく。
上記の例で10%とした場合は、相場が一瞬で10%動いた結果維持証拠金で拘束した4%を超える分の6%は自己資金で引き当てているので経営に影響は出ない。CPへ不渡りを出すこともないので業務も通常通り継続できる。あとは粛々とと未収金の取り立てができる。ただし、客からその6%分が回収できなければ特損(引き当て)ということになる。今回FXCMは全体の未収金の40%にあたる90%の顧客に対する債権を放棄した。日本でこの処置はまだ合法とは言えない。個々に債権債務の法的処置をしていかないと勝手に業者が”もういらない”と宣言できない。

細かいことを言えば、この%はできれば通貨ごとに設定する。NFAもそうしているがそれは当たり前な話である。インターバンクもそうしている。スイスフランはもともと伝統的にリスクウウェイトはドルや円に比べて1.2倍であった。
今回のスイスショックのように、局地的豪雨になったとき、CHFに絡む通貨は反対通貨が何であれ同じ影響を受ける。EURCHFを震源としてUSDCHF, CHFJPYとCHFが絡む通貨ペアはみな激変した。なので現行の市場リスク額を計算するモデル(Single Currency Method)同様に顧客のNOPも計算しないと、実際正確なリスクの計測ができない。ややこしいとは思うが一応以下に具体的な計算例を挙げる。

一つの口座でこれらのポジションを持っている場合で、スワップ金利は無視する。これらのポジションから市場リスク額を掛け目10%と仮定してSingle Currency Method で計算すると7,4168,024円になる。これに対してこの客が預けている証拠金が1千万円で、これはNOP74,168,024円に対して13%分であるので、“顧客市場リスク額”としては0円となる。

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2つ目の例としては、ポジションは同じで客が預けている証拠金額だけ違う。例2は3百万円だけ預けておりそれはNOP額に対してぴったり4%である。なので、10%分との差額4,416,802円を“顧客市場リスク額”として計上することになる。

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表中、JPYは日本が円なので市場リスク対象通貨とはならない。よって計算対象外である。現在の法律では顧客の証拠金の4%相当というのはCurrency Pair Methodで計算することが前提となっているのでそこが若干違う。
平均的に投資家がかけるレバレッジは10倍程度なので、10%程度の証拠金は平均としては預けているだろうが、上でも触れたように甲という客の損失を乙という客の証拠金で埋めることはないので、口座ごとに計算することになる。

以上言ってはみたものの、業者がつぶれるリスクを回避するためにどこまで縛りをきつくするかというのは現実的にはなかなか難しい問題である。縛りをきつくすることでつぶれるリスクは減るが、そのハードルを越えられない業者が出かねない。その分業界の頭数としてしぼんだり、今以上に勝ち組と負け組が分かれていくかもしれない。実際米国はそういう効果(影響)が出るような施策を明らかに意図的にNFA/CFTCはとってきた。業者として自分がどっちになるかはつまるところ資本力”とか銀行向けの“信用力”ということになる。結局金をいっぱい持っているところやそういうパトロンを後ろ盾にしている業者が生き残るということになり、小さくてもエッジを建てて頑張っている業者はにっちもさっちもいかなくなる。むろん、そもそもドル円市場で一瞬にして10%や30%もの相場変動が起きることを企業のリスクとして想定するべきかどうかという議論も当然ながらあるだろう。そんなことが起きればことは外為証拠金取引業界だけの問題ではなくなる。一般の輸出入企業まで巻き込まれる。

5月からクリック365でトルコリラ円(TRYJPY)が始まった。ご存知の通り地政学的リスクは無視できない通貨である。インターバンクのオフショアでの取引高もさほどではないだろう。ドルメジャーとしてのUSDTRYにしてもそうであろう。気を付けて取引するに越したことはない。

最後におまけながら言い添えるが、現行の法規制通りとしても、市場リスク額を計算するときの式の途中のNOPを算出するところに通貨ごとのリスクウェイトを掛けるというぐらいの対応は合ってもいいのではないかと思う。CHF, CNH, TRY, HUFあたりは当然ウェイトは1より大きいと思うのだが。

▼尾関高のFXダイアリーをご覧のみなさまへ
このFXダイアリーで取り上げて欲しい話題、また尾関さんに書いてもらいたいテーマなどあれば業界内外問いませんので、「件名:FXダイアリーへの要望」として info@forexpress.com までご連絡ください(コラムへの感想でも勿論結構です)。



Posted by 尾関高

プロフィール

尾関高

尾関高

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、米国インテグラル社の日本支店に勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXにかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引〜取引の仕組みからトラブル防止まで〜」(同友館、2004年6月)がある。。

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