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シンメトリカルスリッページ論争

2014年04月21日(月)

■シンメトリーの概念

指値注文は相場に向かう注文
少なくとも外為証拠金取引が始まるまでは、インターバンクにおいては、指値(リミット)注文はベターフィルしないのが当たり前だった。ベターフィルを指定する注文タイプとしてリミットとは別に、profit_taking という注文タイプを用意する銀行もあった。

逆指値注文は相場を追いかける注文
指定した価格にタッチ(トリガー)したら、成行で追いかける注文。であるがゆえにスリッページが発生する。外為証拠金取引が始まってから、トリガーの定義が若干ぶれている。本来ならば、逆指値売り注文の場合は、判断に使う気配値の「売値」が注文価格(トリガー条件)にタッチしたら(あるいはそれ以下になったら)成行の売りを発動するというものだったのだが、スリッページを嫌がる客へのベターサービスとして、気配値「買値」がタッチしたらその買値で約定させる、つまり売値と買値のスプレッド分が業者の負うリスクとして内包されるロジックを導入する業者も現れた。これは固定スプレッドを前提する限りは客にはわかりやすいが、そこからいくらでカバーができるかは業者が持つカバー先の流動性次第なので業者側が結構なリスクを背負うことになる。一方で、そのスプレッドを自由に広げることでストップ狩りを行いやすくする問題点もある。

■事の始まり・CFTC/NFA

シンメトリーという概念はNFAが持ち出した。ふつうシンメトリーかどうかを議論する場合、同種のもの同士でないと意味をなさない。自分の顔が左右対称か(シンメトリカルか)どうかを議論できても、サルの顔右半分と人間である自分の顔の左半分がシンメトリカルかどうかを議論する価値も意味もない。上記の指値と逆指値におけるスリッページがシンメトリカルであるべきだという議論は、実はそういう意味ではない。“向かう注文”と“追いかける注文”では、流動性を捕まえる条件が違う。そこがスリッページの議論の中では誤解されているように思えてならないのである。

 指値逆指値について限定して、あえてシンメトリカルかどうかを議論するなら、売りと買いの指値注文における振る舞いがシンメトリカルかどうか、またそれとは別で売りと買いの逆指値注文における振る舞いがシンメトリカルかどうかの議論は成立する。相場に向かう指値と、相場を追いかける逆指値のスリップのシンメトリーを要求したこと自体、私の眼には晴天の霹靂なのである。しかしシンメトリーをNFAが要求したポイントはそこではないと信じている。

■EEモデルであるがゆえのシンメトリーの存在可能性

 NFAが指摘したのは、米国FX業者が「EEモデル」を標榜して“インターバンク直結”であり、業者としてはそこに“マークアップを乗せただけ”で、それしかとらない、と投資家に明言したにもかかわらず、実際はEEモデルとしての1対1のカバー取引によって得た利益が、設定したマ−クアップ以上生まれれば客の約定価格は注文通りそのままにし、ストップ注文によって発生した「マークアップ分未満」となった損失は、その不足分を客の約定値段につける(ストップ注文のすりページとして現れる)という点を、説明と違うではないか、と指摘したことに始まると解釈している。

実際には投資家からも似たようなクレームもあったし、それが顕著だったのが週末マタギの指値注文が週末に変更できないにも関わらず、月曜朝一番の開局で大幅に相場がずれているときに不利な状況で約定をつけられてしまうことに対する苦情から始まったと考えている。

CFTCもNFAも、あくまでも業界団体であり、自主規制団体である。彼らの母体は先物業界であり、私としては彼らにとって新たに生まれたこのOTCのFX業者はあまり歓迎される存在ではないという印象を持つ。

リーマンショック以降、ドッドフランク法の下に様々な法規制が進行し、透明性の掛け声と、十分な資本力のない業者が市場リスクをとることに対する嫌悪感から、SEFの規制(登録義務)も生まれた。

NFAは米国のFX業者に対してリテールビジネスとしてはEEモデル以外は認めないのは実質的な面からみて明らかである。

■シンメトリーの本当の対象

 EEモデルを前提とすると、ストリーミング注文だろうが、指値注文だろうが、逆指値、成行だろうがすべての客の約定に対してそれがいくらでカバー先でカバーされたかが判定できる。そこからいくらの収益、利ザヤを得たかも計算できる。それらが、指値、逆指値だろうが、売り、買いだろうが、システム上のマークアップ設定どおりの額であることをシンメトリーという言葉の本質として据えている。

言い換えれば、シンメトリカルかどうかという論争は、約定ロジックがEEモデルでない限り決して現実的に追いかけられる概念ではないのである。

間違ってもNFAは客の遺失利益を業者にやみくもに支払えと言っているのではなく、“現実として”業者の懐に入った超過利益をイコール客の遺失利益と想定して、客に還元しなさいと言っているのである。その計算式は極めて単純で、
{(客の約定価格)−(カバーした価格)}− 設定しているマークアップ
である。

EEモデルではないカバープロセスにおいて、上記の計算式に入れるべき(カバーした価格)が存在しない。それを無理やり、その時の業者が約定判定に使っているレートで置き換えるという考え方は、現実的に確定した業者側の超過(マークアップ以上の)利益が存在しない。それどころか取引ごとにみれば損失になっているケースも多い。EEモデルの場合は注文とカバーが1対1の関係で紐づけできることが必要条件になるが、EEでないモデルではN:Mになりがちで紐づけはできない。

EEではないモデルでカバーしている業者のEEモデルと比べて本質的で決定的な違いは、市場リスクをとっているかいないかになる。結果生まれる収益が、前者はディーリング収益、後者は設定したマークアップ通り、という違いとして出てくる。前者はマークアップ分の計算上の利益を閾値として実際のディーリング収益と比較したときそれ未満になることもある。結果前者においてそれ以上が出たときは、市場リスクをとったご褒美である。
この問題と、投資家が実際に取引していてシステム上の反応のしかた(拒否やスリッページ)から生まれる不満は別次元の問題としてとらえるべきだと思っている。

日本のFX業者で投資家にフルEEモデルであることを標榜する業者を今のところ私は1社しか知らない。




Posted by 尾関高

プロフィール

尾関高

尾関高

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、米国インテグラル社の日本支店に勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXにかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引〜取引の仕組みからトラブル防止まで〜」(同友館、2004年6月)がある。。

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