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ロスカット処理の遅延の合理性は10秒という判例

2013年10月22日(火)

以下の判決がでたという記事を読んだ。「10秒」という新たな解釈が生まれた瞬間である。総論としていたしかたないと思うものの、以下の判決の記事を読んで一つだけ違和感がある。

【当該記事(日経)】
▼FX取引で証券会社に賠償命令 18秒の約定遅延「債務不履行」

FX取引で証券会社に賠償命令 18秒の約定遅延「債務不履行」 2013/10/16 18:54

インターネットを通じた外国為替証拠金(FX)取引で、約定が遅れたことで損害を被ったとして、茨城県の男性が松井証券に約1400万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は16日、約200万円の支払いを命じた。
問題となったのは、損失が無制限に拡大するのを防ぐため、あらかじめ設定した為替レートになった場合に強制決済される「ロスカット」と呼ばれる仕組み。原告側は設定レートに達してから実際のロスカット約定までに約18秒経過し、その間の相場変動で損失が生じたと主張していた。
戸田久裁判長は「ロスカットまでに一定のタイムラグが生じることは契約上想定されているが、10秒を超えれば合理的範囲内とはいえない」と指摘。タイムラグを抑えるシステムを整備する義務に違反したとして、証券会社側に債務不履行があったと結論付けた。

合理的になにがしかの線引きをしなくてはならない場合、どこかで誰かが決めなくてはならないことがある。レバ規制における「25倍」もそうだ。これが26倍でも22倍でもなく“きりよく”25倍になったのも、だれかの“感性”が働いた結果であり、その感性がマジョリティにそれとなく受け入れられるかぎり常識的な数値として成立する。

今回のケースも同様で、「遅延」の現象に対して10秒までは合理性を認めそれ以上には合理性はないという判断が下された。これにより前例が生まれ確定してゆくのが世の常である。いったん確定すると人はなぜそうなのかと疑うことをやめてしまう。そして業者やシステムを開発するベンダーは明確に10秒の壁を訴訟リスクとして意識するようになる。

現実問題としてどうかと考える。多数の客を抱え、膨大なポジションを管理しているサーバーにとって、ロスカット処理というのは大変な作業であるが、物理的に対応すれば何とかなると考える。つまり力技で乗り切る。しかしこれだとシステム投資がかさんでゆく。別の方法としては新たなアプリ上のアプローチ等ソフトで対応を考える。まだまだ改善の余地はあると考える。さて、問題はそこではない。問題は、ロスカットを実行するときにカバー先の流動性がこの10秒の縛りを守れるだけ十分にあるかどうかである。この論点は裁判で議論されただろうか。

業者がNDD(EE)モデルでない場合は、CP側(インターバンク市場)の流動性とは関係なく客のロスカットを実行できる。そのため10秒以内に処理できるかどうかの問題は上記のとおり技術的な問題として扱える。しかし、業者がNDDであった場合、CP側での約定を待って客につけるため、その瞬間に流動性が薄かったり、CP側に発注しても返事が返ってこなかったりし、それが原因で10秒以上かかってしまったらどうなるのか。

以下に述べる言い訳を想像するにつけ、こうしたケースでの「合理性」はどう解釈されうるのかが気になるところである。

言い訳の例

「当社はNDDを顧客に明示しており、結果カバーに行ったCPからの約定の返事が遅れたため10秒以上かかった」
「当社はNDDを顧客に明示しており、結果カバーに行ったCPから約定拒否が連続し、最終的に5回のトライで約定したため10秒以上かかり、ロスカットの価格もトリガーしたレートよりも20銭スリップして約定したが、気配としてはその20銭の間に何度かCPからのレート配信はあったものの実質的にその価格での約定はインターバンク市場においてほとんど認められず、最善の努力の結果がこれであり、それに対して合理性を否定されても将来的な対処の方法論は見えない。これはまさに市場そのものの反映であり、そこに作為(NDDを使わずに業者が独自判断で約定を付けるなど)を持ち込まない限り対応は不可能であった」

ロスカットオーダーはいわゆる成行きで相場の後を追いかける注文になるためトリガーした価格より悪いレートで約定することがほとんどであるが、業者もこのスリッページをうまくコントロールできない。昔のようにドル円のスプレッドを2銭とかでクォートしているときは自分で受けて客には甘めの約定(たとえば一律1銭のスリッページを付加)を返すという均質で上質なサービスもできたが、昨今の極狭スプレッドになるとそんなことをしていると損ばかりになりかねず、そうなるとロスカットオーダーだけはあくまでもCPに投げて約定した価格から適正なマークアップを乗せたレートで客の約定とする方法が現実的である。つまりNDDになる。その方がなぜここで20銭のスリッページが発生したんだと問われてもクリアな回答ができる。業者内部の恣意的な操作で勝手なスリッページをつけていないと証拠を以て説明できる。米国はまさにここに焦点があてられ続けてきた。

実際、市場に予想外のショックが走り相場が迷走し始めると、一つの約定を求めて10秒以上さまようことはあった。サーバーのパフォーマンスとかキャパシティの問題ではない。過去を振り返ればロシア危機、LTCM破たん、NY同時テロ、リーマンショック、東北大地震(3.11)など何度もそうした局面はあった。当然、全部のロスカットが10秒以内にできたはずもない。たとえサーバーの余力が十分であったとしても、インターバンク市場が、業者側において10秒ルールを守れるだけの小刻みな流動性を提供できない場面は数多くあっただろう。

今回の判決が絶対的な前例となり、上で述べる市場の問題に起因する遅延でも一律に10秒を合理性のボーダーラインとして使われるようになるなら、約定モデルや顧客との契約(取引約款とか同意書)の中身を再考していかないと、やたらと訴訟やら苦情やらが増えることになるだろう。投資家にしてみれば10秒を超えていたら、訴えれば勝てると思うに違いないからである。東京地裁の判決にケチをつける気はないが、原則10秒を受け入れるとして、「合理性の観点」からしてみても例外はあるということだけは主張しておきたい。
最後にもう一度言うが、10秒以上の遅延があくまでもサーバーのプロセスの遅延によると結論付けられる場合に限りこの「合理性」は担保されるが、それが市場の流動性に起因する場合はそうとも限らないというのが私の見解である。

実際に起きていることは、現場に立ち会っている人でないとわからないことが多い。特に金融はモノではないから、経験と事象から本質を見抜く才能だけが頼りである。




Posted by 尾関高

プロフィール

尾関高

尾関高

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、米国インテグラル社の日本支店に勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXにかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引〜取引の仕組みからトラブル防止まで〜」(同友館、2004年6月)がある。。

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