為替今昔物語
金融界の責任が大きい今回の世界同時不況
2009年02月10日(火)
世界同時不況の原因
昨年9月に米国大手投資銀行のリーマン・ブラザーズの倒産により加速化した金融危機は、「実態経済にも深刻な影響を与え世界同時不況を引き起こした」と言っても言い過ぎではあるまい。 今までの金融危機と今回のサブプライム・ローン問題を起因とする金融危機の大きな違いは、サブプライム・ローン担保証券に代表される証券担保証券(Asset Backed Security・・ABS)やクレジット・ディフォルト・スワップ(Credit Default Swap・・CDS)などのディリバティブ商品の発行額が余りにも巨額であり、その仕組みが余りのも複雑であるため、金融機関の損失がさらにどこまで広がるか見通しが立たない事にある。
資産担保証券
資産担保証券(Asset Backed Security・・ABS)の一つであるサブプライム・ローン証券が大きな問題となっているが、銀行の貸出債権のリスク軽減目的で誕生した証券担保証券には問題は無い。それどころか、住宅ローン担保証券は、住宅価格が上昇している限り、関係者全員が得をするうまい仕組みであり、究極のリスク管理手法である。
銀行やローン会社はローン債権の不良債権化リスクを軽減し、投資銀行やヘッジ・ファンド・マネージャーは取り扱い手数料収入を得る。機関投資家は高金利で効率的な資金運用ができる。さらに、保証会社(モノラインやAIG)は保証料を稼ぎ、S&Pやムーディーズなどの信用格付け会社は手数料を稼ぐことができる。住宅価格が永遠に上昇していればの話である。
重い金融機関の責任
銀行やローン会社(オリジネーター)は、貸付債権を証券化することでリスクを他の第三者へ転嫁し、多額の手数料収入を得てきた。そして、次第にできるだけ多くの住宅ローンを実行し、ついには、もしリスクを自分で取るのであれば、決して貸付を実行しないであろう返済能力が低い低所得者にも、平気で貸付をするようになった。
このビジネスは、いつかは住宅バブルが弾け、多額の不良債権が発生するリスクを内在していることは明白である。しかし、彼等は、多額の収益をもたらすこの金融ビジネスを自ら止めることはしなかった。オリジネーターは、住宅価格の上昇が止まれば多額の不良債権が発生するリスクを感じながらも、多額の収益をもたらすこの金融ビジネスを自ら止めることはしなかったことに問題がある。商道徳の欠如と言わざるを得ない。 しかも、金融ビジネスの規制緩和により、証券業務と銀行業務を同一のグループに所有していた金融機関はリスクを軽減する筈のローン債権の証券化業務の失敗で巨額の損失を被った。
最近のマスコミ報道によると、「オバマ米国大統領が、金融機関の経営者らが2008年に巨額のボーナスを受取っていたことに対して、無責任で恥ずべきことと批判した」とのことだが、全く同感である。
金融機関の社会的な役割
お金は、商品の売買や役務などのサービスに対する支払手段として使われ、実体経済の成長に大きな役割を果たしている。金融機関は、預かったお金を安全に管理し、資金を必要としている企業に資金を供給して、経済成長をサポートする社会的な役割がある。つまり、実体経済があっての金融経済である。
しかし、筆者は、金融機関の経営は、10数年前からその社会的な役割よりも「期間収益」と言う儲け主義に変ったと感じている。そして、金融機関にある横並び体質により儲かる金融ビジネスを巨大化にした。金融ビジネスが巨大化しただけに破たんした時に、金融経済、実体経済に壊滅的なダメージを与えることになった。
金融機関の経営者は、本来の金融機関の社会的な役割を果たす経営に専念することが求められている。
Posted by 佐藤利光