為替今昔物語
投資家におくるメッセージ
2003年12月29日(月)
■今年はいかがでしたか?
早いもので今年も残すところ数日となった。さて今年の投資結果はいかがでしたでしょうか?簡単に今年のドル相場をふり返ると、年初118円60銭台でオープンし、2月および3月に今年の高値121円80銭程度をつけてからドルは下落傾向を辿りたものの、8月までは日銀の市場介入があり、116円〜120円のレンジ相場であった。しかし、9月のG7で、外圧により日銀の市場介入相場が変更され12月9日には106円76銭まで下落した。ドルの下落相場では、為替取引の結果は総じて悪いのが一般的。勿論、プロの外国為替ディーラー顔負けで、ドルの下落局面でも確実に為替で儲けている個人投資家も多い。投資には損得が付きものなので、自己責任で投資した結果の損であれば納得が行く。そして、その経験を活かして勉強すると、次第に為替取引のコツを会得していくものである。
■ある投資家からの相談
10月頃の話です。ある投資家から相談がありました。その方は、ある会社の担当者が為替取引について電話で親切に教えてくれたので取引を始めたとの事。当初勧められるままに為替取引をして数十万円の儲けがあった。しかし、9月のG7後の急激な円高で評価損を抱えている。ポジションは116円〜118円で30万ドルの買持。筆者は、「ドル下落トレンドでの為替ポジションはできるだけ少なくするほうが良い。少なくとも過去儲けた分を充当しても、一部決済をするか?もし、可能であれば全額決済して損失を実現化したほうが良い。そのほうが更なる円高になった時にストレスが少なく、精神衛生上良い。そして、再開する時は為替取引を十分勉強した後で、取引単位は10万ドルでなく1万ドルで始めたらどうか」とアドバイスした。しかし、その投資家は、「ドルが現在よりももっと下がっても買持が自動ロスカットにより解消しないように十分資金を送金するつもり。」との固い意思。そこまで、覚悟しているのであればそれはそれで一つの考え方である。
■スプレッド取引
約2週間後、同じ投資家から電話があった。「取引会社からスプレッド取引を勧められている。説明が良くわからないので教えて欲しい」との事。
取引会社からの提案は次の通り。
「今ユーロ円が128円である。ドル円の持値平均127円と比較すると10円以上高い。ユーロ円を売って価格差11円を確保しておく。将来、ユーロ円とドル円の価格差が縮んだら、反対取引をすれば今の評価損は解消できる。これをスプレッド取引と言い、皆そうしている。」との事。
筆者は「スプレッド取引という取引手法は色々あるが、ユーロ円とドル円のスプレッド取引は聞いた事は無い。」と即座に答えて説明した。
■ユーロドルの売り
取引会社の言うドル円とユーロ円のスプレッド取引とは、「現在のドル円の買持ちをユーロドルの売持にシフトすること」以外の何者でも無い。
つまり、128円のユーロ売りは108円のドル円売りと1.1851のユーロドル売りになる。その結果、ドル円のポジションは売りと買いで相殺され、今後のドル円の相場には全く影響されない。ユーロドルの売りポジションが残る。その結果、ユーロドル相場が下がれば儲かるが、さらに上がれば損失が膨らむことになる。
■勧めるからという理由で取引してはいけない
現在、ユーロドルは高値更新中である。「上昇トレンドの最中に相場に逆らう売りポジションを持つ事を、どう思いますか?」とその投資家に聞いたら、「そんなリスクは負いたくない」と直ぐに答えた。「ドル円のマイナスポジションをユーロ円売りのスプレッド取引で収益を挙げる」とプロらしい取引手法を勧める事で、初心者に取引をさせることはあまり感心しない。「為替相場は上がったら下がり、下がればあがる習性」があるので、ユーロドルの高値で売持をする投資手法も確かにある。しかし、この手法はあくまでもトレーディングスタイルの短期売買手法。長期的な投資スタイルの初心者に勧める取引手法でない。とはいえ、会社は利益を上げるために色々と考えるものである。取引会社が勧めるからという理由で為替取引をしてはならない。自己判断で取引をすべき。
■アルゼンチン債
投資家に色々な投資を勧めるのはなにも為替取引会社だけでない。銀行や証券会社もしかりである。2000年に証券会社や銀行が「アルゼンチンが発行した円建て外債」を全国の地方自治体やその外郭団体に「高金利だから」と勧めて大量に販売した。彼らは銀行や証券会のブランドを信用して買ったのである。その結果、アルゼンチン国のディフォルト(債務不履行)宣言である。
筆者は、投資のプロである機関投資家(生保、信託銀行、投資顧問会社の運用担当者)に売るのであれば、問題としない。何故なら、彼らは投資のプロであるからでる。筆者は、1970年代のメキシコのディフォルト宣言を経験している。その時は資本取引が制限されていたから、資本取引の実害があった訳ではない。輸出代金が日本へ送金されなかったのである。以来、南米の国の信用リスクに対しては慎重である。機関投資家が、例えそのリスクを取るにしても、最適資産配分を考えての上であろうから、大きな比率の配分は決してしないはずである。投資の素人である地方自治体の外郭団体の経理担当者に信用リスクを判断する能力は無い。そのような初心者に高リスクの投資を勧めるべきでないと筆者は考える。しかし、大銀行も、大証券会社も自己の手数料稼ぎのために、販売するのである。
■自己責任で投資
実質ゼロ金利の長期化により、資産形成を考える人口が大幅に増えた。同時に金融ビッグバンの進展により、銀行、証券会社、投資顧問会社、為替取引会社などの金融機関が様々な投資商品を推奨している。
21世紀は自己責任で投資の時代である。そのことを自覚し、投資商品に対する正しい理解と、金融機関の担当者のセールストークに惑わされないために投資に対する不断の勉強が不可欠である。何度も繰り返しますが「自己責任で投資を」という言葉を今年最後のメッセージとして投資家の皆様におくります。
Posted by 佐藤利光